表題番号:2013A-039 日付:2014/04/02
研究課題多剤耐性緑膿菌に対する抗菌剤の探索
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 中尾 洋一
研究成果概要
2010以来、多剤耐性菌による院内感染が国内でも大きな問題となりつつあり、その対策が急務となっている。2010年に問題になった院内感染ではアシネトバクターが大きく取り上げられていたが、実際には多剤耐性緑膿菌(Multi-Drug Resistant Pseudomonas aeruginosa: MDRP)も検出されており、院内感染の現場においてはむしろこちらのほうが大きな問題となっている。緑膿菌は、生来多くの抗菌剤に耐性であるため、セフタジディムやイミペネム等のβ-ラクタム剤やアミカシンやトブラマイシン等のアミノグリコシド剤など、ごく限られた中から選んだ薬剤を治療に用いられているが、1980年代初頭から、これらのカルバペネム系、フルオロキノロン系、アミノグリコシド系に対しても、3系統の抗菌剤全てに耐性を示す多剤耐性緑膿菌が出現しているため、これらの耐性菌に対する対策が急務となっている。
そこで本研究では、多剤耐性緑膿菌に対して有効な抗菌剤開発のリード化合物を探索するため、表現型指向性アッセイである多剤耐性菌を用いた抗菌活性試験と、薬剤耐性の原因となる酵素のAACおよびMBLに対する酵素阻害活性を標的指向型アッセイとして組み合わせ、多剤耐性を克服できるような新規抗菌剤を見出すことを目的とした。
本研究は多剤耐性菌と戦う最前線の現場である国立国際医療研究センターとの密接なコラボレーションによって行い、以下に述べる成果をあげることができた。

当研究室が保有する海洋無脊椎動物抽出物1816検体についてMIC法による抗菌活性を評価したところ、7検体に抗菌活性が確認された。特に顕著な活性を示した鹿児島県産Agelas属海綿から活性本体の探索を試みた。本海綿をメタノールで抽出し、抽出液を濃縮後、水とクロロホルムにより二層分配し、水層はさらにn-ブタノールで抽出した。クロロホルム層とn-ブタノール層を合一して濃縮後、ヘキサン層と90%メタノール層に二層分配した。その後、活性を示した90%メタノール可溶性画分をODSカラムクロマトグラフィーによって分画し、6つの画分を得た。最も強い抗菌活性を示し、かつサンプル量が豊富であった70%メタノール可溶性画分を逆相HPLCに付し、活性主成分として大腸菌、および枯草菌に対する抗菌活性物質として知られるoroidin、およびその類縁体を同定した(MIC 6.25~50 µg/mL)。得られた化合物の多剤耐性緑膿菌に対する抗菌活性、およびHeLa細胞、P388細胞に対する細胞毒性を評価した。
これらの化合物の共通の特徴はブロモピロールと2-アミノイミダゾールを含むことであった。oroidinのダイマーを基本骨格としているageliferin、bromoageliferin、dibromoageliferin、mauritiamineはoroidinを上回る抗菌活性を示し、2-アミノイミダゾールの部分構造を含まない4,5-dibromopyrroll-2-carboxylic acidは抗菌活性を示さなかった。特に、ageliferinは最も強い抗菌活性を示し、最も弱い細胞毒性が確認された。そこで本化合物の作用機序を研究するため、本化合物に対する耐性株を作製した。耐性株に対する抗菌活性はNCGM2.S1株のそれと比較して8倍以上のMIC値を示した。次世代シーケンサーによって本耐性菌株のゲノムを解析し、変異点から標的タンパク質の絞り込みを行って作用メカニズムの解析を行っている。