表題番号:2013A-034 日付:2014/02/26
研究課題構造形態の工夫による超免震橋梁の開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 秋山 充良
研究成果概要
 兵庫県南部地震以降,耐震解析手法には長足の進歩が見られるのに対して,地震動評価には依然として圧倒的な不確定性が存在する。このような不確定性に対峙し,構造物の地震時安全性を確保するためには,地震動の不確定性の影響を受けないほど構造物の性能を高める必要がある。コンクリート系の耐震部材の開発では,この手段として部材靭性率を大きくしてきた。既に,降伏変位の約20倍までの応答変位が生じても,安定した曲げ挙動を呈するRC柱も開発されている。しかし,部材変形能により地震エネルギーの吸収を期待した構造は,基本的に地震後にある程度の修復作業を必要とする。橋梁は,地震後の救助・救急活動や,都市の復興に重要な役割を果たすことを考えると,地震中の安全性と地震後の供用性をともに確保できる技術開発が必要である。
この背景のもと,摩擦振子型免震機構を有するコンクリート橋脚を提案し,その震動台実験により,基本的な地震時の応答特性を確認した。摩擦振子が滑り曲面上を運動することで,上部工に作用する慣性力の下部構造への伝達が遮断され,滑り曲面の形状および摩擦振子と滑り曲面間の摩擦で決定されるせん断力に起因する断面力が橋脚基部や基礎に作用する。これにより,地震動の大きさに関係なく,橋脚基部や基礎に作用する最大断面力を構造諸元のみで決定できるため,橋脚や基礎の弾性設計が可能となる。さらに,免震支承等の特別な装置を必要とせず,構造形態のみの工夫により長周期構造を実現するため,免震化に伴うコスト増を抑えることができる。過去に実施した震動台実験により,地震中の橋梁の安全性を確保する上で,摩擦振子型免震機構を有するコンクリート橋脚の有用性を確認できた。ただし,地震後の供用性を本構造が確保できていることを示すには,摩擦振子と滑り曲面間で生じる地震後の相対変位(残留変位)についての検証が必要である。
 一般的な単柱式橋脚で生じる残留変位に関する既往の研究には,例えば,川島らの残留変位比応答スペクトルに関する検討がある。残留変位は,1自由度系に置換した橋脚の骨格曲線をバイリニアで表現したとき,その初期剛性と2次勾配の比に大きく依存し,さらに地震動毎に得られる残留変位のバラツキは非常に大きいことが示されている。一方で,橋脚に生じる残留変位の発生要因を橋脚の損傷のみに起因するものとして捉え,橋脚下端部と上部工の慣性力作用位置の相対変位で橋全体系の残留変位の大きさを表現すること,および震動台実験や被災橋脚から実測された残留傾斜角との比較から,RC橋脚の残留変位の計算には相当に大きなモデル誤差が含まれることが指摘されている。
 上記の背景のもと,本研究では,摩擦振子型免震機構を有するコンクリート橋脚の震動台実験を実施し,滑り曲面の形状,あるいは地震動特性などが残留変位やそのバラツキの大きさに与える影響を確認した。また,今回の検討に用いた地震動は,現行の耐震設計で規定されるレベル2地震動よりもさらに大きく,それによる最大滑り変位が生じた後にも,本構造に生じる残留変位は小さい値に抑えられることを確認した。今後の継続した実験的検討が必要なものの,本構造は,地震中の安全性と地震後の供用性を兼ね備えたダメージフリー橋梁の一つになり得るものである。一方で,実験的に得られる残留変位の大きさを解析により定量評価することは困難であった。残留変位を解析的に得るための数値モデルの高精度化が必要である。