表題番号:2013A-027 日付:2014/04/01
研究課題既存RC造建物躯体の長期使用のための改修方法に関する実験研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 小松 幸夫
研究成果概要
2012年7月に奈良県奈良市に2棟の実験棟を建設し、既存の躯体に断熱等の改修を行うことが建物躯体や室内環境にどう影響するかを実測比較調査を行っている。2012年は1棟に外断熱を、もう1棟はコンクリート躯体のみ(未改修)という設定で実験棟各部の温度測定を年間を通して行った。本研究である2013年度は、未改修棟に遮熱塗料を塗布し、その効果を外断熱実験棟との比較において計測した。
実験棟は3m立方の鉄筋コンクリート造(床面積9㎡の平屋)で、壁厚は15cmである。外断熱の仕様はコンクリート躯体に対して、屋上が高反射型防水シート2mm厚、クロスシート1mm、硬質ウレタンフォーム50mmの構成、外壁はビーズ法ポリスチレンフォーム70mm、メッシュ、断熱仕上げベースコートである。遮熱塗料実験棟は、屋上が高反射型防水シート2mm厚、クロスシート1mmの構成で、外壁は日本ペイント社の水性反応硬化形外壁用高日反射率塗料0.28~0.34kg/㎡、水性反応硬化形低熱伝導率フィラー0.4~0.6kg/㎡を施工した。なお両実験棟には2.2kWの家庭用エアコンをそれぞれ1台ずつ設置している。
計測は、躯体各部の内外表面温度、室内温熱環境(温度・湿度・グローブ温度)、および設置したエアコンの消費電力量である。実験は開口部の開閉状況とエアコンの運転時間を組み合わせたいくつかのパターンを設定し、それらにしたがって計測をおこなっている。なお計測は表面温度については熱電対を用い、各測定箇所のデータを10分間隔で採取した。
まず躯体への影響を評価するため、夏季に屋上の内外表面温度差を測定した結果を述べる。内外表面温度差が大きいとコンクリート躯体には熱膨張・収縮によるストレスが加わり、長期的には躯体の劣化につながると考えられる。実験においてエアコンを24℃に設定し24時間運転した場合、内外表面温度差の最大値は未改修では10℃、外断熱の場合0.9℃であった(2012年計測)が、遮熱改修の場合は5.8℃(2013年、同時に計測した外断熱は1.9℃)であった。また屋上スラブの外表面温度の日較差最大値は未改修18.1℃、外断熱1.6~1.7℃に対して遮熱改修は9.6℃であった。これは結果の一例であるが、遮熱改修は外断熱改修には及ばないものの、夏季には温度差によるコンクリート躯体へのストレスをある程度緩和する働きがあることがわかる。
また省エネルギー効果に関して、同一の温度設定とした場合のエアコンの電力消費量を比較した。その結果夏季において、未改修の場合は外断熱改修に対して約2倍の電力消費量となるのに対して、遮熱改修の場合は外断熱の1.5倍程度となった。以上の点から遮熱改修は外断熱には及ばないものの、夏季においては省エネルギーについても一定の効果を有することが明らかとなった。
なお冬季においては、遮熱改修したものは躯体外表面の温度が上がりにくいため、躯体内外の表面温度差が未改修よりも大きくなる傾向にあること、またエアコンの電力消費量(暖房)についても、日射による放射熱が遮断されて室内に流入しにくいため、未改修の場合と同じかそれ以上の値になることが確認できた。
以上をまとめると、遮熱塗料による改修は夏季の暑さに対してはある程度の効果が期待できるが、冬季にはあまり有効ではないという結果となった。