表題番号:2013A-010 日付:2014/03/06
研究課題戦後日本における炭鉱離職者雇用対策と閉山離職者の再就職過程
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 嶋崎 尚子
研究成果概要
本研究は、一連の石炭政策が終了した現時点ゆえに可能な考察として、具体的に以下の3点を目的としている。第1に、1956年石炭政策開始以降、2002年最後のヤマである太平洋炭礦の閉山までの主要炭鉱・産炭地での閉山離職者対策の実態に関する資料ならびにその成果(マクロ統計データ)を収集し、歴史的コンテクストならびに産炭地域コンテクストを把握する。第2に、石炭産業離職者の再就職過程をミクロデータによる社会学的分析研究をもとに整理する。第3に、それを歴史的コンテクスト・産炭地域コンテクスト上に埋め込み、ライフコース・アプローチをもちいた国内産炭地間の比較分析を行う。
本研究では当初の計画どおり、5段階で研究を進めた。しかし当初申請予算に対して交付金額が6割であったため、いくつかの点で計画を縮小せざるをえなかった。第1段階である北海道、九州での資料収集とヒアリングについては、3か所のうち、長崎・福岡での関連資料の収集を断念した。また第2段階の宇部については山本氏の招聘を断念した。それ以外については、第1段階から第4段階まで計画どおり実施し、現在、第5段階炭鉱間比較分析の段階にある。その中間成果として、12月に論文成果を刊行した。最終成果は、今年度断念した2課題を実施したうえで、2014年度中に成果として刊行する予定である。
 本研究をとおして、戦後日本における炭鉱離職者の雇用対策については、以下の点を確認できた。日本の石炭産業はエネルギー産業における構造転換政策の下、収束過程を経て終焉をむかえた。昭和30年以降、炭鉱離職者は20万人を超えた。この間の離職者対策は、私企業、各産炭地の個別問題にとどまらない国家的課題として認識され、公共性のきわめて強い事業と位置づけられた。他産業にはみられない手厚い対策・支援体制が整えられ、再就職のみならず、移動、住宅、職業訓練等を含めた「総合的な対策」が講じられた。
 具体的な支援は、雇用促進事業団を中心に、閉山炭鉱ごとに石炭会社・労組と行政との連携体制で進められた。そのうえで、経済的支援にとどまらず、山元相談員を中心に産業転換する離職者への個別相談・斡旋というパーソナルな支援が展開した。そこでは北海道での炭鉱離職者雇用援護協会に端的なように、労働組合が中心的役割を担った。こうした支援は、炭鉱離職者固有の特性を反映したものであり、炭鉱社会が生み出した労働者文化ときわめて親和性の強いものであったと解釈できる。
炭鉱離職者への対策・支援には課題と限界もあるが、大規模な炭鉱離職者の再就職は、総じて大きな社会混乱を生じることなく遂行された。産業構造の転換期に、産業転換を迫られる労働者には、一時的な応急的な失業対策ではなく、「総合的支援」が必須であり、かつ個別事情に応じたパーソナルな支援・斡旋が効果的であることが確認された。
上記の離職者対策コンテクスト上に、各産炭地における離職者の再就職過程を位置づけることにより、歴史的コンテクスト、産炭地域コンテクスト、さらに閉山離職者の階層構造等による多層的な構造を明らかにすることが可能になる。