表題番号:2013A-006 日付:2014/02/26
研究課題フランス後見裁判官の研究ー「家族」中心の成年後見法体系における国家の役割
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 准教授 山城 一真
研究成果概要
 本研究は、成年後見法制のアクターに関する考察の一環として、後見事件担当裁判官の役割と責任に焦点を当てたものである。以下、本助成の活用方法(1)、本研究の具体的成果(2)、計画の達成状況と今後の課題(3)を順次報告する。
1 本助成に基づき、次のとおり研究基盤の整備を進めた。
 (1) フランス成年後見法(旧法における禁治産を含む)、精神病者の監置に関する1838年の法律(いわゆるエスキロール法)に関する基本文献・立法資料を重点的に収集した。フランス成年後見法研究の遂行に必要となる重要文献(特に、19世紀のもの)は、国内図書館に所蔵されていないことも少なくない。本助成に基づいて代表者が収集した資料は、いずれも希少かつ参照価値の高いものであり、これによって歴史・比較法研究に不可欠の環境を整備することができた。
 (2) 資料収集および現地研究者との面会を目的として、海外出張(フランス共和国・パリ)を行った。その結果、2013年9月12日にダヴィド・ノゲロ教授(パリ第5大学)、同13日にナタリー・ペテルカ教授(パリ第12大学)と面会し、成年後見法に関わる様々な主題についての意見交換をすることができた。なお、成年後見法を専門とする両教授との学術交流の機会をもつことができたのは、おそらく代表者が日本で初めてである。
 以上のとおり、本研究によって、今後の日仏比較成年後見法研究にとっての基盤ともなり得る大きな成果を挙げることができた。
2 以上の成果を活用して、次の各研究を遂行し、いずれについても成果物となる論稿を執筆した(すべて脱稿し、校正中)。
 (1) 後見事務の監督に関する成年後見担当裁判官の法的責任についての研究。近年、わが国においては、成年後見人による横領事件が増加しており、これに伴い、家庭裁判所が適切な監督を怠ったことを理由とする国家賠償責任訴訟が提起される例も増えている。この問題について、フランス法は、民法典に明文の規定を設けて裁判所の責任を明らかにしている。本研究においては、この規定の沿革を明らかにするとともに、同規定を適用して後見事件担当裁判官の責任を認めた諸判決を分析した。その成果は、成果発表欄(1)の論文として公表される。
 (2) 法定後見申立てに関する成年後見担当裁判官の役割についての研究。フランス法は、2007年の成年後見法改正によって、旧法に存在した職権開始手続を廃止した。本研究においては、そのことのもつ歴史的意義を明らかにするために、本テーマにつき、1804年の民法典制定、1968年の成年後見法改正等の歴史を子細に跡づける研究を行った。その成果は、成果発表欄(2)の論文として公表される。
 (3) さらに、2013年10月19日開催の横川敏雄記念公開講座において、「本人死亡と成年後見人の権限」と題して、フランス法の状況を紹介する報告を行った。その内容に大幅な加筆(特に、生前処分として盛んに行われている「葬儀保険(assurance d'obseques)」に関する分析を付け加えた)を施した研究成果は、成果発表欄(3)の論文として公表される。
 3 以上によって、当初計画された成果はすべて達成されたと考える。今後は、「家族」「専門職後見人」についての比較法研究を進め、成年後見法制のアクターに関する研究をさらに深めることを課題としたい。