表題番号:2013A-004 日付:2014/04/10
研究課題イノベーション政策と雇用創出に関する理論研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学術院 教授 福島 淑彦
研究成果概要
本研究は、スウェーデンとフィンランドのイノベーション政策を検証・研究することによって、日本においていかなるイノベーション政策が最も雇用創出効果が高いかを探ることを目的としている。

 ノベーション創出において国際的評価が高く、社会福祉の面でも先進的な、スウェーデン・フィンランドなどの北欧諸国は、先進国のイノベーション政策と雇用創出の実験場とみなされており、多くの研究対象となっている。日本の科学技術イノベーション政策と雇用創出の関係性の問題点を考えるうえで、北欧諸国はベンチマークにすべき国々とみなすことができる。スウェーデンとフィンランドのイノベーション政策を検証した結果判明したことは、以下の通りである。

 北欧諸国の科学技術イノベーション政策は、R&DによってもたらされたProduct Innovationが、新商品の開発→新市場の誕生(新需要の喚起)→売上・利益の増大→雇用の創出・増加、という流れに向かうように実行されている。北欧諸国と比較すると、日本における科学技術の成果の多くは技術の開発や特許取得で止まってしまっている。つまり、科学技術の成果が「新商品の開発」や「新商品の市販化」まで辿りつかないため、雇用の創出・拡大へとつながっていかないのである。
 
 北欧諸国では科学技術イノベーション政策を後押しするように産業構造を積極的に変化させる経済・産業・教育政策が行われている。これは、日本の経済・産業政策が既存の産業や企業を維持・温存させる方向で行われているのとは対照的である。例えば、北欧諸国の労働市場政策では、競争力を失った伝統的産業から競争力のある新規産業へと労働力を積極的に移動させるような政策が行われているのに対して、日本では競争力を失った既存産業での雇用を維持させる方向で政策が行われている。また、大学などの高等教育・研究機関に対する教育政策についても、北欧諸国では新産業向けの技術と関連のある分野・領域(学部)への人的・物的資本の投入が積極的に行われている。その一方で、競争力を失った伝統産業関連の分野・領域(学部)への人的・物的投資は劇的に削減されている。
 
 北欧諸国では過半の労働者が中小企業で働いており、多くの利益が中小企業によって生み出されている。特にSelf-employmentの状態にある労働者が非常に多いという点は注目に値する。これは科学技術イノベーション政策が中小企業をターゲットとしていること、若年層向けに起業家精神の教育を積極的に行っていること、労働者向けの職業訓練教育が充実していること、の結果と言える。