表題番号:2012B-291 日付:2013/04/03
研究課題学校教育との連携による総合型地域スポーツクラブにおけるスポーツ指導法の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 本庄高等学院 教諭 福永 泰規
研究成果概要
1:研究の経緯
 学校教育との連携による総合型地域スポーツクラブ おおくぼ山スポーツクラブの活動は7年目となった。毎年実施している「少年野球交流」では、かつては選手として参加した小学生が、高校生となり、指導する立場として少年野球交流に参加する選手が10名以上になった。また、毎月実施している「スポーツ指導研究会」は通算65回の開催に至った。おおくぼ山スポーツクラブの7年間の活動が少しずつではあるが地域の中で根付き、成果を上げてきている。
2012年度 おおくぼ山スポーツクラブでは「研究との連携」と「実践」をテーマとし、各プログラムを企画し展開した。
2:2012年度 おおくぼ山スポーツクラブ 研究実践
(1)スポーツ指導研究会
スポーツ指導研究会は、おおくぼ山スポーツクラブ設立当初から年間約10回開催し、2012年度11月で通算65回の会合を重ねてきた。
スポーツ指導研究会でテーマとした主な内容は以下の通りである。
○海外スポーツと日本スポーツの比較からみるスポーツ指導における差異
○全日本野球指導者講習会受講成果発表
○少年野球交流プログラム内容に関するディスカッション
○「研究」との連携による実践プログラム展開についてのディスカッション
スポーツ指導研究会では、ディスカッションするテーマに対し、具体的におおくぼ山スポーツクラブの実践プログラムとして実践展開を行うことを目的として議論を重ねてきた。研究会会員各自の研修・経験から導き出された貴重な意見/提言をもとに「いかにして実践するか」を2012年度おおくぼ山スポーツクラブのテーマとした。
 2012年度、研究会において議論されたテーマの中でおおくぼ山スポーツクラブとして実際に展開したプログラムは「少年野球交流」「映像コーチング」「保護者プログラム」「練習における運動量の測定」の4つである。

(2)少年野球交流(キャッチボールクラブ)<プログラム実践>
 おおくぼ山スポーツクラブ少年野球交流(キャッチボールクラブ)を2012年5月3日、11月23日、11月25日の3回計画し実践した。天候不良により5月3日はプログラムを中止としたが、本庄地域2つの高校で11月に2回プログラムを実践した。少年野球選手参加者は延べ78名(23日:42名・25日36名)だった。
 11月23日早稲田本庄学院にて実践した少年野球交流を『スポーツ指導実践実習』と位置づけ、企画・実践に関して教える側になる高校生自身による運営実践活動を促しプログラムを展開した。
 11月25日本庄東高校にて実践した少年野球交流は、チームによる指導法に差異のない野球の技術として、「タッチプレイや走塁」さらに、野球を通じて身につけるべき要素として「道具の手入れ方法」のプログラムを企画し実践した。
プログラム終了後に参加者にアンケート調査を行い、プログラムに対する評価を検証した。アンケート調査の結果、少年野球交流で「上達した」と回答した選手は78名全員であった。また、その理由は「高校生と一緒にやったから」「高校生が優しく教えてくれた」「高校生が丁寧に教えてくれた」の3つでほぼ100%となった。小学生と高校生の人数がほぼ同数で、普段の練習では経験できないマンツーマンに近い指導が小学生にとって深く印象に残ったことが明確である。
 指導者育成プログラムとして23日早稲田本庄学院で実践した「映像コーチング」も小学生にとっては興味を引くプログラムとなり、「自分の打撃フォーム・投球フォーム見られたことがとても良かった」という評価を得た。
 2日間のプログラムを通じて明確になったことは、指導的立場となる高校生と指導される立場の小学生がほぼマンツーマン形式で練習を実践できることは双方にとって好影響を与えていることである。通常の講習形式のいわゆる「野球教室」では経験できない「個別指導」が、おおくぼ山スポーツクラブの展開する「少年野球交流」の最大の特徴であることが再認識された。
 2012年度の少年野球交流(11月23日早稲田本庄学院少年野球交流)では、新たな試みとして指導を受ける側の小学生に、予め5つのカテゴリー(投球・打撃・試合形式・キャッチボール基礎・トレーニング)の練習メニューを提示し、各自が選択して交流に参加してもらう形式を採用した。昨年まで実施してきた少年野球交流は、ウォーミングアップ、キャッチボール、トレーニングを共通で行い、ポジション別に分かれての技術指導、打撃練習、試合形式という内容であった。
 参加3チームのうちの1チームはすべてを選手の意思に任せ選択をした。少年野球指導者からは、どのメニューを選択するかで選手1人1人の思考を知ることができたとの評価を得た。野球の練習は選手1人1人の考えを尊重して展開できる形式ではないことが多い。今回の選択方式による練習展開の試行は、少年野球交流プログラムで指導者の立場となる高校生が多数存在するからこそ可能なものであることを再認識した。今後のプログラム実践の柱として今回の成果を活用したい。
 また、指導する立場の高校生にとって、ビデオ機器の操作に関しての実践経験を体験したことも今後の日常練習における活用につながるものとなった。クローズドスキルである打撃動作・投球動作に関する関心を高め、自らのパフォーマンス向上のために機器活用の具体的方法を経験し、小学生に理解できる言葉で説明すること、説明に当たっての自分の知識・経験を持つ重要さを実感した意義は深い。こうした一連の経験は今後の日常練習に即時的に活用される礎となり、スポーツ動作に対して研究心育成の土台となった。

(3)保護者対象 実技プログラム(アスレティッククラブ)
 おおくぼ山スポーツクラブではかつて2005年に「保護者プログラム」を展開している。その経験を踏まえ、2012年度は、学校施設・用具・人材をさらに積極的に活用した実践プログラムを4つ、保護者向け講習を1つ展開した。
<1>学校施設/用具を活用しての実践プログラム
①硬式野球マシン打撃体験
 早稲田本庄学院野球場には打撃専用のゲージ施設がある。この施設を利用して希望者に「硬式球打撃体験プログラム」を展開した。 安全についての留意事項を高校生が説明し、同意を得た上でプログラムに参加していただいた。
②大久保山ウォーキング
 「自分に合ったウォーキング」というテーマで活動量計を用いての運動量の測定、途中休憩地点での心拍数の測定を実施し、運動強 度についてのチェックシートを用いて「自分に合った運動レベル」を把握する実践プログラムを行った。
 高校生は、活動量計の使用についての説明、心拍数の測定、コース案内を行い、「話しながら運動する強度」を維持しながらウォー キングを実践した。「話しながら運動する」ことをこのプログラムの重要課題と設定したため、地域住民である保護者との会話を通 じて交流を深めることができた。
③バードゴルフ
 早稲田本庄学院野球場周囲の芝生を利用してコースを設置し、体育授業で展開されているバードゴルフ用具を借用してプログラムを 展開した。早稲田本庄学院では3年生の体育授業で「ゴルフ」を採用している。1/2年生にとって実際には授業を受けたことのな い「ゴルフ」であったが、コースを設定し、保護者と一緒にラウンドすることでウォーキングプログラム同様、地域住民である保護 者との会話を通じて交流を深めることができた。
④テニスマシン打ち体験
 早稲田本庄学院体育科備品であるテニスボールマシンを活用して「テニスマシン打ち体験プログラム」を展開した。気軽に体を動か すプログラムとして、また女性にも手軽に楽しめる軽スポーツとして本プログラムを展開した。母親対象のプログラムとして人気の 高いプログラムとなった。
⑤保護者対象 講習プログラム
 少年野球選手保護者向けに「高校生までにやっておくべきこと」と題して本庄東高校野球部監督田中和彦氏による講演を実施した。
 座談会形式で実施した講義は「栄養/食事面での高校での実践例」「小学生期から継続して取り組むべき柔軟性トレーニング」など を主な内容とし進めていただいた。参加者から「とても参考になった」「もっと詳しく話を聞きたい」といったコメントが多数寄せ られた。今後もおおくぼ山スポーツクラブプログラム企画の柱として継続実践したい。

 今回の保護者プログラムに関して新たにその効果が明確になったのは、その運営を担当した早稲田本庄学院生が地域の方と交流する絶好の機会となったことである。普段接することの少ない地域の方との交流は、早稲田本庄学院に対する地域の方の理解を促進し、学院生も地域の中で育てられ、応援されていることを少なからず実感することができた。学校教育との連携によるプログラムの展開であるからこそ、こうした副次的な効果を生み出されたと言える。 また、ウォーキングプログラムでは活動量計・血圧計を使用してのデータ収集・活用についての実践活動を経験したことによって、スポーツ科学的見地からの練習への関心が高まり、日常の練習での活用実践、応用実践をより容易にした。

 学校教育との連携による総合型地域スポーツクラブの最大の利点は、指導的立場の高校生が年度によって入れ替わりながらも、地域住民を対象に活動が継続的に実践できる点にある。高校生にとってのプログラム運営は、スポーツ指導に関する多くの要素を学び、実践する学習を進める上で理想的な「場」となり、高い教育効果が期待できる。また地域住民にとっても「運動実践」「学校理解」といった点が魅力となる。

(4)指導者育成プログラム
 おおくぼ山スポーツクラブでは、2011年度「少年野球選手の長時間練習が身体に及ぼす影響についての研究」を実践した。2012年度はこれを応用して、高校生野球部員を対象に活動量計を使用して練習による運動量測定に関する研究を実践した。
(2012年12月19日~21日の3日間にて測定 9:00練習開始、昼食休憩40分間、計20分間の休憩、16:30練習終了 練習時間約6時間 )

 今回の冬季トレーニング主体の練習メニューにおいては、平均で約19000歩、歩幅75cmとして移動距離は約14~15 Km、消費カロリーは約2000KCalであった。今回、活動量測定を実施した3日間の練習による消費エネルギー量は高いレベルにあることが分かる。
 さらに、1日の総活動量(練習と登下校活動を含む)では平均で約26800歩、活動量は約2700KCalであった。
 活動量計では認識しにくい登下校での自転車走行やウエートレーニング・腹筋背筋メニュー・基礎代謝を加えると総活動量は3000Kcalを軽く超える結果となった。
 指導者は、練習計画作成にあたって、それが実際にどのくらいの量なのかを計測することが今まで簡単にできなかった。しかし、活動量計を活用した本研究の方法は簡単に練習量の概算計測を可能にした。これによって、練習内容が選手にどのくらいの負荷なのかを指導者が具体的に知ることができ、選手への指導に活用することができる。
 指導者は、練習量の把握にとどまらず、栄養面での指導もより具体的に指導することが可能となる。「食事量」の確保を具体的に数値で示すことにより、消費したカロリーを選手が理解しやすくなる。指導者は、消費カロリーを補う以上の食事量を提示・提案することができる。多くの選手は、具体的な数字を提示することによって、体作りの土台となる栄養摂取に対する意識が変わり、練習効果及びパフォーマンスをより向上することが大いに期待できる。
 2012年度プログラムでは活動量の経過チェック及び食事・栄養指導での活用にとどまったが、他にも工夫により様々な活用方法が開発できると考えている。2013年度の研究計画として、指導者の練習計画作成の指針となるプログラム実践を目指すこととする。

3:2012年度おおくぼ山スポーツクラブ活動の成果と課題
(1)2012年度研究成果
 「キャッチボールクラブ:少年野球交流プログラム」「アスレチッククラブ:保護者向けプログラム」「コーチングプログラム:映像コーチング実践プログラム」「指導者育成プログラム:スポーツ指導研究会・運動強度の測定プログラム」の各プログラムを、過去7年間の実践から得た課題を改善し、よりより洗練された形で新たに「実践」を試みた。
 7年にわたるおおくぼ山スポーツクラブ活動を経て、地域における本クラブの活動がようやく認知され、今年度の各プログラム実施後のアンケートではすべて高い評価を得ることができ、実施したいずれのプログラムも大きな成果を上げることができた。2013年度はさらに活動を拡大、充実させる段階にあることが確認された。
 特に今年度は研究助成(早稲田大学特定課題研究助成)を受け、プログラム展開に当たり活動内容をより発展させることが可能となり、おおくぼ山スポーツクラブの活動意義をより高度な形で立証することができた。おおくぼ山スポーツクラブの過去7年間展開したプログラムにおいて「学校教育との連携」による生徒や地域への高い成果は実証されてきた。2013年度以降はこうした成果をベースとし「研究としての地域スポーツ土壌育成」をさらに拡大展開することが課題となる。「研究」としての側面をさらに拡大した実践を展開することがおおくぼ山スポーツクラブの今後の大きな課題であると考える。


(2)2013年度研究課題
 2013年度、おおくぼ山スポーツクラブ活動計画として、大学研究機関や野球指導研究を進めている他の団体との交流・連携を計画している。おおくぼ山スポーツクラブの培ってきた多くの成果を、他の研究機関と連携し、さらに充実させた内容に発展させるよう交流を図りたいと考えている。
 「学校教育との連携による総合型地域スポーツクラブの運営・展開」の研究は、過去3回の研究助成を得た。それによって様々な機械器具がそろいつつある。「研究」としてのおおくぼ山スポーツクラブプログラムが、研究者の「データ収集の場」として、また「研究実践の場」として、さらに参加者にとっても「費用無料で研究的アプローチからスポーツを実践するきっかけ」となる。さらに年度ごとに新たに機械器具を順次そろえていくことでより充実したプログラムに発展させることができる。
 おおくぼ山スポーツクラブの「学校教育との連携による総合型地域スポーツクラブの運営・実践研究」による活動は、手軽にどの地域でも展開できることから始めることできる方式である。本研究の実践方式によって地域に根付いた総合型地域スポーツクラブとしての充分な活動ができることを広く公表し、さらに活動を充実させたいと考えている。