表題番号:2012B-284 日付:2013/04/07
研究課題ある種の算術的作用素の跡公式を用いたヤコビ形式からなる空間の分解とその応用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 高等学院 教諭 坂田 裕
研究成果概要
 本特定課題研究では,昨年度特定課題研究から継続して進めてきたある種の算術的作用素の跡公式を用いてヤコビ形式からなる空間
の分解を行った.さらに,本研究を多角的に推進する目的で,2012年度では様々な研究集会に参加して,本研究課題について多様な分野
の研究者と様々な角度から研究討論も行ってきた.特に国際研究集会 ”Automorphic Forms and L-Functions”(Darmstadt 工科大学
2013年3月17~19日)では各研究講演・討論に参加すると共に,本課題研究を表現論的立場からサポートする N.Skoruppa 氏(Siegen 大
学)との共同研究を進めることも出来た(この研究成果の一部は本研究集会での N.Skoruppa 氏(同上)の講演において紹介されることに
なった). 本課題研究の成果については(当初想定していた以上に様々な技術的問題が噴出したために)未整備な部分が多々残されている
ものの,関連分野の研究者からは熱心な質疑やコメントが寄せられており,この方面での研究に一定の影響を与えることが出来たといえ
よう.この様に継続的な取り組みと様々な研究者との白熱した研究討論を続けることで,本課題研究では以下の成果を残すことが出来た:

1)素数冪レベルのヤコビ形式上に作用する Hecke 作用素の跡公式を完全に記述した,また,それを用いてある条件下において素数冪
  レベルのヤコビ形式全体のなす空間を( Hecke 加群として)分解した.この分解は素数の偶数冪レベルのヤコビ形式からなる部分空
  間の系列を用いて表わされており,そこから重複度1条件を満たす部分空間を具体的に取り出すために必要となる算術的作用素も幾
  つか構成した.
2)ヤコビ形式を与える有限二次加群の表現がベクトル値保型形式上のヴェイユ表現に含まれることを示すことで,上記跡公式から直接
  導かれる跡関係式やヤコビ形式間の同型対応が存在するための表現論的裏付けを与えることが出来た(N.Skoruppa 氏(同上),青木宏
  樹氏(東京理科大)との共同研究).
3)他の保型形式の構造(特に Eisenstein 級数と theta級数の間の具体的関係性)も同時に調べることでヤコビ形式の構造を多角的に分
  析し,本課題研究を進める上での一助とした.なお,この部分の成果は一般化した形で論文発表も行った(小嶋久祉氏(埼玉大),三
  浦康秀氏(岩手大),徳能康氏(宮城高専)との共同研究).

 本特定課題研究では,様々な研究者らとの研究討論や情報交換を通して2)や3)の様な共同研究も同時に進めることで,(部分的で
はあるが)当初の研究目的であった1)の成果を得ることが出来た.なお,2)については現在,更なる精密化を求めて共同研究者達と
共同研究を進めている.