表題番号:2012B-273 日付:2013/04/03
研究課題入会林野における逆コモンズの悲劇とその対応に関する実態的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 平山郁夫記念ボランティアセンター 助教 加藤 基樹
研究成果概要
農山村の過疎化、高齢化によって、今日の入会林野の多くは誰も利用・管理しないまま、あるいは処分ができないという状態になってしまった。これはガレット・ハーディンの指摘とは全く逆の意味での悲劇であり、本研究は、日本型のコモンズで起きた「逆・コモンズの悲劇」の状態にあるとの前提のもと、その対応策を検討するものである。
ところが、本研究開始後、2012年7月に「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」が成立した。これによって、従前の林業経営よりもはるかに収益性の高い間伐材を中心としたバイオマス買取制度が成立し、また牧野では、畜産との連携によってメタン発酵によるガス化発電が可能になり、これらは投資効率から高い利回りが指摘されることになった。
つまり、入会林野は再生可能エネルギーを供給する大きな可能性を持つことになったのであり、地元集落等にとっても、入会林野を所有、利用することにこれまでと違った意味合いが発生することとなった。そこで、これまでの入会林野利用の実態を踏まえて、買取制度の成立によってどのような変化がもたらされるか、そして、その担い手としての認可地縁団体の役割、展望と課題について検討し、これを2013年度の科学研究費応募の課題とした。
したがって本研究は、同応募への先行研究の形をとることになった。具体的には、長野県野沢温泉村の野沢組、同県長野市(旧戸隠村)の中社組の入会林野利用の実態を調査し、また、間伐材によるバイオマス発電への展望について聞き取りを行った。結果としては、両地域とも同買取制度の状況を把握していなかったため、その取り組みはこれからということであった。また、長野市開発公社では、戸隠村地域のスキー場リフト経営が同公社に移管された経緯について聞き取りを行った。長野県松本市の松本広域森林組合では、これまでのところ、同買取制度への対応は見られないが、県が塩尻市にプラント建設を計画しているとのことだった。今後の詳細に調査することとしたい。
また、鹿児島県の調査では、同買取制度への対応として、農業用水路における小水力発電導入について、鹿児島県土地改良団体連合会より聞き取りをおこなった。これによれば、県内土地改良区に対して案内はしているが、積極的な問い合わせは少ないが、他方で、民間業者の参入が見られるとのことであった。南阿蘇村では入会牧野を採草放牧地として利用している実態があったが、現在のところ、新たなバイオマス的利用には結びついていないとのことであった。
なお、研究協力者の植杉は、地域金融を研究テーマとしており、入会林野をバイオマス発電利用することになった場合の資金調達について、地域金融の役割を実態的に把握、分析することを今後の研究課題としてあげている。