表題番号:2012B-257 日付:2013/05/15
研究課題社会的能力とガバナンスからみた震災復興計画の評価研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 教授 松岡 俊二
研究成果概要
 本研究「社会的能力とガバナンスからみた震災復興計画の評価研究」は、福島原発事故にともなう災害復興に焦点を当て、社会的能力とリスク・ガバナンスいう観点から復興過程と今後の原子力安全規制のあり方を研究することを目的としている。その際、単に原子力災害復興だけでなく、今回の福島事故を引き起こした原子力安全規制の問題点や地域住民の原子力行政に関する認識や信頼が事故の前後でどのように変化しているかも含めた総合的な研究とするように計画した。 
 原子力リスク・ガバナンスについては、2011.3.11の福島原発事故以前の原子力関係者(政官財マスコミ)による原子力村構造から根本的に脱却し、今後はより開かれた透明性の確保されたアクターの関係性の中でガバナンスを形成する必要がある。そのためには、原子力規制委員会は社会的責任をはたし、国民の信頼を得ることが第一義的に重要である。この点では、活断層評価は開かれた議論を展開しており、一定の信頼回復に貢献したと評価しうる。第2のポイントは、被規制産業である電力産業の改革である。自ら高い安全基準の達成を目指して環境イノベーションを起こすような市場構造や産業組織にすることが重要である。福島事故の社会経済的要因の一つは、垂直型の地域独占制度による競争の欠如であった。先頃、政府は2015年頃をめどに発送電分離を含む電力改革と大幅な自由化を目指すとした方針を明らかにしたが、スピード感が欠如しており、このままでは旧態依然とした電力産業が存続する。有効な社会的規制と規制の社会的能力という観点からは、深刻な問題と評価される。第3のポイントは規制機関と市民社会・地域社会との関係である。この点はすでに述べたように、厳格で科学的な安全規制基準設定とその実施により、原子力規制への社会的信頼を回復することが重要である。また、SA(過酷事故)時の周辺地域避難計画の策定と防災・減災社会の形成も重要である。こうした市民社会・地域社会と規制機関との開かれた透明性のある関係形成にはまだまだ時間を要するものと考えられる。
 リスク評価については、規制機関の能力と意図に基づく伝統的な信頼モデルと近年の主要価値類似性(SVS)理論に基づく方法を踏まえ、2013年1月13日に福島県いわき市において8名の被災者を対象とした予備インタビュー調査を実施し、震災前における伝統的モデルの適用可能性と震災後におけるSVSモデルの妥当性を検討した。現在、この予備調査を踏まえ、本調査を2013年度に実施する準備を進めている。