表題番号:2012B-256 日付:2013/04/16
研究課題インドネシア九月三○日事件をめぐる総合研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 教授 後藤 乾一
研究成果概要
本研究プロジェクトは発足以来、夏季および冬季休暇を除き以下のような形で月例研究会を実施してきた。大別すると本プロジェクトメンバー(協力者を含む)による研究成果報告、および外部関係者の講演・聞き取り調査からなる。以下では定例研究会の報告一覧、次いで全体的な所見を記しておきたい。

2012年4月28日(土)
報告:高地薫「インドネシア文学にみる9月30日事件」
5月28日(月)
報告:山本まゆみ「オーストラリア国立公文書館所蔵 9・30事件関係資料」
6月22日(金)
報告:山﨑功「いわゆる“3.11命令書”、"SUPERSEMAR"をめぐる近年の状況」
7月27日(金)
報告:吉野文雄「9・30事件の経済的意義:スカルノの理念とスハルトの政策」
 日本・アジア関係研究部会と合同研究会
9月29日(土)
各メンバーの研究進捗状況報告
10月19日(金)
報告:Th. J. エルリーナ(インドネシア社会史研究所研究員)「村落近代化構想の破壊:北ボヨラリにおける1965年事件」
11月10日(土)
報告:高地薫「レフォルマシ以降の歴史教育における9月30日事件」
12月19日(水)
報告:波多野澄雄筑波大学名誉教授「佐藤政権のインドネシア援助と9・30事件」
2013年
1月12日・13日合宿(伊豆畑毛温泉 大仙家)
各メンバーの研究進捗状況報告
李榮端氏(台湾在住インドネシア華人知識人)講演「インドネシア華人としての個人史」

3月30日(土)
お話:大鷹正氏(元駐オランダ大使、9・30事件当時在インドネシア日本大使館勤務)

以上にみるように、本研究プロジェクトは、インドネシアのみならず東南アジアひいては第3世界の国際関係に決定的ともいえる重要な変化要因を引き起こした1965年9月30日事件を、国内的諸要因、国際環境の中での事件の把握、の2方向から分析することを目的として発足した。最終的には2015年すなわち事件発生50周年に本テーマにかかわる国際会議を開催することを課題としているが、今年度は同事件が現代のインドネシア社会においてどのように歴史化・思想化されているかに着目した研究に重点を置いた。またそれとの関連で事件後大量の華人系インドネシア人が中国あるいは台湾に出国(亡命)したが、その間の事情を考察するため台湾在住の華人知識人を招へいし、長時間に及ぶ詳細な聞き取りを行った(ただし、まだ関係者が数多く存命するため本ヒアリングの成果は公表を控える前提でなされた)。それを受けて2013年度はアジア太平洋研究センター原口記念アジア基金を活用し春の連休を使い2名のメンバーが中国福建省の「華人村」に調査に出向くことが合意を見た。
 9月30日事件は、日本のアジア外交にとっても大きな画期をなす事件であったが、この点については日本外交史の権威である筑波大学名誉教授・外務省外交史料館外交文書編纂委員会委員長の波多野澄雄氏から当時の佐藤政権の事件への対応について新公開の外交文書を用いての詳細な報告を受けるとともに、事件当時駐ジャカルタ日本大使館政務担当書記官であった大鷹正氏から臨場感あふれる講演をいただくことができた。これら日本との関係については、上記2報告を踏まえ現在さらなる研究を進めている段階である。
 なお9月30日事件については、ジャカルタに拠点を置くインドネシア社会史研究所(ISSI)と密接な連携を図ることに先年合意ができている。同研究所は、インドネシアの社会史、特に口述資料を用いた研究の推進を目的として、2003年にジャカルタで設立された民間の研究機関であり、①研究・出版、②資料室、③教育の3活動を中心に取り組んでいる。特に、9・30事件に関しては世界的に最先端の研究を行っており、相互訪問による研究内容や資料の共有など本研究プロジェクトとの協力関係を築いているが、今年度はエルリーナ研究員が10月に日本を訪問し、本研究プロジェクトからは8月に倉沢・馬場の両メンバーが、9月には高橋がそれぞれジャカルタのISSIを訪問し、研究交流と資料の探索をおこなった。