表題番号:2012B-250 日付:2013/05/08
研究課題東アジアにおける領域紛争解決に果たす国際法の役割とその限界
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 教授 池島 大策
研究成果概要
 東アジアは、従来、中国の文化圏にあり、その影響を様々な分野において受けてきた地域であったが、特に第2次世界大戦後の領土処理を巡る国家間の軋轢や外交上の成果などから、いまだに多くの国際関係上の紛争を抱える地域となっている。こうした紛争は、歴史や国際政治・外交の遺産として、国際法の解釈・適用の上でも非常に困難な課題を関係諸国に投げかけている。特に、日本をとりまく三つの領土問題(北方領土、竹島及び尖閣諸島を巡る紛争)は、その相手国との二国間関係だけでなく、最近の北極における航路及び資源開発や南シナ海での領土・海域紛争において存在感を示すようになった中国の外交とも絡んで、この地域において日本の果たす外交上の役割を再定義する必要を迫っている。
 こうした背景から、本研究では、東アジア地域において特有の考え方や歴史的な淵源が領土紛争に及ぼす影響を探り、その中で国際法が果たす役割とその限界を考察することを試みた。限られた時間において得られた暫定的な結論は、以下のような3点に集約できると考えられる。
 まず、経済だけでなく、外交上、軍事上も力を誇示するようになった中国を前に、現行国際法の解釈・適用だけで対処しようとしても、現実的にまた実際上、領域関連の問題に対して有効な解決策は限定的なものに止まるであろう。なぜなら、中国は、国際法を自国の国益を国際関係上確保するための道具と考えるだけでなく、西洋諸国の圧倒的な影響下で形成されてきた国際法で、自国を含む東アジアにおける諸問題を処理することに、歴史的、イデオロギー的にも、非常に大きな抵抗感を持っていることに留意しなければならない。台頭する中国を前に、国連海洋法条約に未加入の米国が自国の立場も顧みずに、批判を展開しまた封じ込めを強行するような状況は、東アジアに真の平和と安定をもたらすことにはつながらない。
 次に、紛争当事国だけによる協議や交渉による解決が停滞・行き詰まりをしても、第三者を交えた解決方式(調停、仲裁、司法的解決など)には、上記のいずれの領土紛争においても、紛争当事国の合意が得られる見通しは乏しい以上、いずれの当事国にとっても受け入れ可能な解決案が見出せる可能性は極めて薄い。様々な解決先例(判例を含む)が示す発想も、一定の示唆に富み、何らかの糸口とはなるであろうが、厳格な適用を拙速につなげることは回避すべきであろう。
 最後に、平和と安定の維持がほぼ永続するような解決方法が得られるならば、厳格な法の解釈適用に依拠することなく、より柔軟な対処の方途を関係国間の同意によって得られるよう、その雰囲気づくりや契機の創出を何らかの外交的な努力によって得られるよう模索する必要性が、この地域の関係諸国には必要であろう。