表題番号:2012B-243 日付:2013/04/11
研究課題水中と陸上での長時間持久運動が循環動態と脂質代謝に与える影響の違いについて
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) スポーツ科学学術院 教授 坂本 静男
研究成果概要
20歳代および30歳代の健常男性8名を対象とし、2012年6月~2013年3月にかけて以下の実験を行った。事前測定としてランニング中および水泳中の最大酸素摂取量(VO2max)を測定した。次に本試験として水泳(S)、ランニング(R)及びコントロール(C)の3試行を実施した。対象者は、SおよびR試行ではそれぞれ水泳もしくはランニングを、65%VO2max強度で60分間おこない、C試行では60分間の安静を保った。それぞれの試行において、負荷(安静)開始直前および60分の負荷(安静)終了直後、負荷(安静)終了60分後、120分後に採血、心臓超音波検査、身体組成、血圧および心拍数の測定を行った。
有酸素性能力を表すVO2maxは、ランニングと水泳間で有意差を認めなかった。最高到達心拍数(HRmax)は水泳中に比べランニング中で有意に高かったが、80%HRmax以下の心拍数においては両群間で有意差を認めなかった。最大脂質酸化量は水泳で高い傾向を認め、最大脂質酸化量時運動強度は水泳で有意に高かった。
S、RおよびC試行時における各種検査データを以下に示す:運動負荷中の%VO2maxはSおよびR試行間で有意差を認めず、運動強度はほぼ同一と考えられた;運動負荷中の心拍数及び%HRmaxも両試行間に有意差を認めなかった;心エコー図検査上、左室流入速度波形拡張早期波および心房収縮期波の比であるE/A比はR試行で運動負荷終了直後のみC試行に比べ有意に低値を示し、S試行のE/A比はC試行に比べて運動負荷終了120分後まで有意に低値を示し、運動負荷開始前に比較して運動負荷終了120分後まで有意に低値を示した;血中心筋トロポニンT濃度はS試行で運動負荷終了120分後にR試行およびC試行に比べ有意に高値を示した;血中遊離脂肪酸はSおよびR試行で運動負荷終了直後にC試行に比べて有意に高値を示し、運動負荷終了120分後にはC試行よりもR施行で、またR試行よりもS試行で有意に高値を示した。
以上の結果から、水泳とランニングでは最大脂質酸化量時運動強度に違いがあり、また最大脂質酸化量自体にも違いがあることが示された。また、65%VO2max強度で60分運動をした場合、運動により動員される遊離脂肪酸が運動終了後120分経過してからも水泳で高値が維持されることが示された。運動負荷に伴う心臓拡張機能の低下や心筋障害は、ランニングよりも水泳においてより大きく、より長い時間起こっていることが推測された。