表題番号:2012B-240 日付:2014/04/02
研究課題短距離走モデルをサッカー種目にコーチングする縦断的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) スポーツ科学学術院 教授 礒 繁雄
研究成果概要
〇目的
 サッカー選手に短距離走の最大速度向上のプログラムを導入し、動作の変化を明らかにするとともに選手の感覚や思考の変化を明らかにする。
〇方法
 浦和Jrユース選手65人(各学年20人程度)を対象に週1度のランニングプログラムを30分ずつ導入した。ランニングプログラムは、走る動作の改善と体幹を中心たした補強で構成した。動作の記録は、40m走のトライアルを画像に取り込み解析した。また、走行後に走りの出来栄えを口頭調査した。なお、このプログラムは、3年前から実施しているため学年別による選手間の情報の蓄積には違いが生じている。
〇結果
1.動作の変化
 1年生と2.3年生の間では、体幹の前傾に違いが生じた。1年生は、2.3年生に比べて前傾傾向が高い。記録の違いは、当然であるが、高学年になるほど短く、これは走行が速いことであり、最大速度が発揮される地点も40m付近に近づいていた。
2.口頭調査
 走りに対する報告は、高学年に従い具体的な表現であり冷静に自己分析している選手が多かった。さらに、この表現は、指導しているコーチの言葉や視点に近い表現であった。ただし、Jrユースチーム代表選手は、そうでない選手に比べて感覚的な表現や、良し悪しのみの表現をする者が多く存在した。
3.サッカー技術コーチ
 コーチからの走に対する意見は、総じて同一であった。具体的には、走りは腿を上げ地面を蹴るのではなく、循環動作として身体を維持するための制動成分を活用すること。を述べていた。こちらから走りが試合に反映しているか。質問したところ監督は、走の重要性を再認識するとともに、後半まで移動速度が落ちなくなっていると報告を得た。

○考察
 高学年になるに従い、最大速度の向上と発揮地点の延長は、100m選手対象の研究報告と同様である。ただし、サッカー選手に比べ100m選手は1歩目からの加速がやや高く歩幅が広い傾向にある。今後は、サッカー選手の歩幅を伸ばすべきか回転数を高くすべきか課題が明らかになった。
 口頭調査による報告を考察すると、指導者の考えが上級学年に従い理解とその表現が同様になることは、指導者の伝達が良好であり適切な対応であったと思われる。このことから、サッカーを経験していない者でも適切な内容を伝えることで種目間の指導の垣根が低くなることが推察される。
 監督の報告に、短距離走練習をすると試合の後半まで移動速度が落ちないと言うことは、最大速度向上が持久性に効果を出ることと考えられる。本来、持久性は持久性トレーニングを導入することで効果を狙うが、短距離走による効果は呼吸循環器的視点で考えにくい。この点は、数量的に明らかにすることが新たな発見につながるであろう。

○今後の課題
 今後は、複数チームや他の競技種目に同様の内容を導入して成果を明らかにすることが必要であろう。それにより「短距離走」が競技種目の指導内容や指導者間の情報提供に対する垣根を低くすることにつながるであろう。