表題番号:2012B-225 日付:2013/04/03
研究課題沖縄離島における多様なアロマザリングとその時代変化の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 教授 根ケ山 光一
研究成果概要
沖縄県多良間島において,守姉に関する聞き取り調査と心理テストを行った。まず島民の戸別訪問による調査では,年配の方における守姉体験の豊富な語りが聴取されたのに対し,若年層ではその形骸化が顕著であり,保育所の設置がその結果をもたらしていると認識されていた。ただし普段の子どもたちの遊び行動の中に守姉的な要素がふんだんに含まれ,育児風土としてなすたれているわけではないことが示された。
 地域の保育所を介して、園児の保護者(母親)に対し,妊娠中や出産前後のようす、日常の子育て、あるいは守姉の有無や縁組の仕方や守姉と子どもとの関係などについて1時間程度のインタビューを行った。妊娠中、産褥期、それ以後のすべての時期を通して、島内、あるいは島外(主として出産が行われる宮古島)に暮らす親族が多くの面で援助機能を果たしていること、また島内では親族にかぎらず隣近所にすむ住人どうしでの子どもの見守りが自然に行われていることがわかり、開かれた雰囲気のなかで子どもたちが生き生きと育つようすが確認された。子どもに守姉がいるという人もいたが、前の世代のそれほど濃密な関係ではなく、しかし特別な間柄であるという意識は、親も子も持っていることが示唆された。
 「守姉」の心理学的意義を明らかにするために、「守姉」を持っていた50歳以上の成人8名を対象に、1)成人愛着面接と、2)高橋(1997)の親密な関係のネットワークを調べる質問紙(ARS)、3)ドール・ロケーション・テスト(DLT)を行った。その結果、「守姉」は、アタッチメント表象に組み込まれていなかったが、心理的距離としては親に対する以上に近い存在と認識していた。また、親に対するアタッチメント表象が、多くの方で曖昧であったが、その場合、祖母や親戚の女性など、親に代わる対象にアタッチメント表象を持っていた。親が労働で忙しい状況で、アロマザリングがアタッチメント表象に果たす役割が示唆された。
 幼稚園児を対象とする調査では、幼稚園児15名に、高橋(1997)が作成したPARTを用いて、親密な関係のネットワークを調べるとともに、役割取得検査によって社会的発達について調べた。その結果、多良間島の子ども達では、親や友達以外の様々な対象が親密な関係のネットワークに含まれていた。特に、きょうだいや祖父母、同居していない親族が、困った場面やものを教わる場面で対象として多く含まれ、高橋(1997)が首都圏で行った「母親タイプ」「友達タイプ」の二分法には当てはまらないタイプが出現した。また、役割取得検査では、年齢に比して高いレベルにある子どもが多くいた。