表題番号:2012B-210 日付:2013/03/21
研究課題刑事立法の時代における条例罰則のあり方
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学総合学術院 准教授 仲道 祐樹
研究成果概要
 本研究課題は、地方公共団体が制定する条例罰則を対象として、その適切な行使のための理論枠組みの構築を目標とするものである。本年度は、特に、近時その動向が注目される、条例における児童ポルノ単純所持の刑事的規制を素材として研究を行った。
 それにより、以下の点が明らかとなった。①単純所持の処罰が、「犯罪は行為である/でなければならない」とする行為主義に抵触するおそれのある犯罪類型であること、②ドイツ連邦共和国においては、行われた行為を理由として処罰する従来型の犯罪と、所持罪とを切り離して、所持罪を「一定の状態を理由として処罰する犯罪(Zustandsdelikt)」であると理解する見解が主張され、議論の対象となっていること、③アメリカ合衆国においては、模範刑法典2.01(1)において、自発的な行為(Voluntary act)、あるいは行為者にとって物理的に可能な行為についての不作為を含まない行動についての刑事責任を否定する行為主義(act requirement)を要求しつつ、2.01(4)において所持が行為主義を満たす場合を規定するという形式を採用していること、④アメリカ合衆国では、行為主義との関係で、さらに状態を処罰する犯罪(Status Crime)について以前は議論が存在したことが明らかとなった。
 ここから本研究課題は、②の点について検討を深めることとし、現在論文執筆の準備を進めている。具体的には、条例罰則における所持罪が、行為主義と整合する犯罪類型であるか、あるいは行為を処罰するという形式以外の処罰形式がありうるかを分析している。
 なお、本研究課題によって、以上の点を明らかとすることができたが、これにより、さらに、以下の点につき、わが国として十分に情報を有していないことを認識することができた。すなわち、①ドイツ連邦共和国における処罰の早期化傾向(所持罪がその典型である)それ自体の議論の状況が、どのようなものとなっているのか。とりわけ、刑法の基本原則との関係でどのような理論的展開がなされているか、②アメリカ合衆国における行為主義が、アメリカの刑事司法実務、あるいは学説上の議論において、どのような機能を果たしているのか、がこれである。
 この点をさらに追及すべく、文部科学省科学研究費補助金への申請を行ったところである。