表題番号:2012B-197 日付:2013/04/12
研究課題電子的手段を用いた合意形成プロセスの解析手法に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 吉江 修
研究成果概要
 本研究では、合意形成がなされていく過程を情報処理技術によって解析することを目指した。各発言者が他のどの発言を支持しているかを推定し、議論全体が収束していく様子を、支持状態のエントロピーを計算することによって捉えることが基本的な考え方である。そのためには、発言が肯定的か否定的か(これに「どちらでもない」を加えて、支持状態と呼ぶ)を判別することがまず必要とな
る。これをテキスト情報から行うことと並行して、音声情報も利用することについて検討した。
 従来、音声データを対象とした情動分析(emotional analysis)に関する研究は多くなされてきた。しかし、情動と発言間の支持状態とを結びつける根拠が存在しなかった。合意形成過程解析に必要な、支持状態を得るために、実験を行った。またこの過程で、他の研究者にも利用可能な、情動音声コーパスと対話音声コーパスを構築した。
 得られた主な結果はつぎの通りである。(1)9名の話者による全1080サンプルから成る情動音声コーパスが得られた。含まれる情動は喜び、怒り、悲しみ、嫌悪、恐れ、中立の6種類であり、この主観判別率は93.7%である。(2)328サンプルから成る対話音声コーパスを得た。主観判別率は93.0%である。(3)音声の特徴量としてMFCC(Mel-Frequency Cepstrum Coefficients)を用い、情動認識を隠れマルコフモデルによって行ったところ、平均正解率79.8%を得た。(4)音声から得られる情動と支持状態との間に相互関連性があるか否かを、カイ2乗検定によって調べた。その結果、「喜び、恐れ、中立と肯定的支持」「嫌悪、怒りと否定的支持」「悲しみとどちらでもない」が有意な依存関係があることを確認した。
 これらの成果は、今後ますます重要になると思われる、ソーシャルオピニオンの分析、人とコンピュータとの対話インタフェース開発、多人数インタラクション方式の開発等に寄与すると考える。