表題番号:2012B-190 日付:2013/04/01
研究課題フォトニック・バンドギャップ・ファイバを用いた分光セルの性能向上のための基礎研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 植田 敏嗣
研究成果概要
研究背景
近年、フォトニック・バンドギャプ・ファイバ(PBGF)を用いて微量サンプルを高感度に測定できる実用的な技術開発研究が各所で実施されるようになってきた。ファイバの中空部分に被測定ガスを導入し、同時にレーザー光もこの中空コア部分を伝搬させることで分光測定を行うことができる。しかし、現在製造されている中空コア PBGFのほとんどはマルチモード・ファイバ(MMF)であり、実用中の機械振動や温度変化、圧力変化などの外部環境の影響が異なる伝搬モードの干渉として現れてしまい、高感度測定を制限する一つの要因になっている。本研究では、これらの難題を克服しながら、独自のPBGFガスセルを設計・開発し、微量なガスサンプルを、高感度かつ実時間で分析することを検証していた。

研究目的
本研究の目標は、理論展開と実証実験の両方面から計測システムの基本的な動作を確認し、極めて低い濃度のガス成分でも正確な計測できる測定システムの開発を目的としている。レーザー光源を変調、被測定ガスの減圧分光法を用いた分析技術により、既存技術のおよそ100倍にS/N比を改善し、サブppbレベルのガス成分を実時間で測定できる実用的な技術を目指す。


研究結果
本研究では、開発内容を二つに分割して遂行した。
まず、光源の変調と減圧分光法を用いた分析技術により、振動や熱などの外部環境の影響による伝搬モード干渉の変化が起因するノイズを改善した。この問題を解決する為、光振の幅変調器を適当な矩形波で変調した。連続のレーザー光を振幅変調してPBGFガスセルに入射することでモード干渉を抑える方式とした。これは,伝搬するパルスの各モードの群速度差により、受光側で全伝搬モードからLP00モードを分離し、不要なモード干渉を抑制しながらLP00モードの出力光強度だけを計測できる新たな測定技術である。連続光を入射ることと比べて、出力の安定性が30倍改善されていることができ、出力変動を0.05%以下に抑えることを目標を達成した[1]。
次は、1本のPBGFに複数のガス流路のチャンネルを設けること、或いは複数のPBGFガスセルを直列に接続することで全光路長100 m程度までのガスセルを設計・開発するため、基礎研究としてPBGFのマイクロ加工技術を確立した。周期的なガス流路と実現するための技術としてFocused ion beam (FIB) ミリングを検討していた。PBGFの途中に設けたガス流路の出入り口として様々な試作を行い、FIBミリング技術は長尺なPBGFガスセルの製作に適当な技術であることを検証した[2]。
次期の研究計画として、変調減圧分光法と長尺のPBGFガスセルを統合し、サブ ppbレベルの極めて低い濃度のガス成分でも正確に測定できる計測技術を確立する予定。