表題番号:2012B-178 日付:2013/04/09
研究課題溶融炉心冷却を目指したナノ流体沸騰伝熱性能予測に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 特任教授 師岡 愼一
研究成果概要
緒言
 福島原子力発電所事故を踏まえ、苛酷事故の溶融炉心による影響範囲を限定するため、溶融炉心を決して圧力容器外に漏洩させない方策(IVR=In-Vessel Retention)が必須である。 漏洩させないためには、圧力容器下部の破損を防ぐため、この部分の限界熱流束(以下、CHF=Critical Heat Flux)を増大させることが必要である。そこで、冷却水にナノ流体を用いてCHFを増大させる技術が検討されている。ナノ流体を用いた溶融炉心冷却対策は、既設の原子炉にも設置することが容易であり、かつ導入コストも低いことから、原子炉の安全対策に有望な手段である。しかしながら、ナノ流体によるCHF増大のメカニズムは明らかになっておらず、原子炉実機への適用は難しい状況になっている。そのため、ナノ流体を実機へ適用するには、なぜこのような現象が起こるかを解明する必要がある。本研究ではTiO2ナノ粒子を使用しCHF増大率の粒子依存性を実験により計測する。またナノ粒子物質を変化させ、粒子物質によるCHF増大率を計測する。それらの結果より、増大メカニズムを検討し、さらに シビアアクシデント対策に適したナノ粒子を提案する。
 2.試験方法及び装置
試験は純水、大気圧、プール沸騰で行い、試験体には外径0.3mm、長さ50mmの白金線を用いた。まずナノ流体中で通電し白金線表面にナノ粒子を堆積させ、純水で満たしたCHF試験装置に試験体を移動しCHFを測定した。高速度カメラを用いて伝熱面を撮影し、発泡点密度の測定も行った。試験ナノ粒子としては、粒子径14nm、21nm、35nm、50nm、80nmの TiO2ナノ粒子、粒子径35nmで材質がSiO2,Al2O3を用いた。
3.試験結果及び考察 
TiO 2の場合、粒子径が小さいほどCHFが向上し、水との接触角も減少、つまりぬれ性が良くなっている結果が得られた。ただし、SiO2,Al2O3のナノ粒子の場合は、水に混濁せず白金線表面にほとんどナノ粒子の堆積はみられず、CHF増大もほとんど見られなかった。
ナノ流体によるCHF増大メカニズムは、ぬれ性が増大することにより、伝熱面から気泡が離脱する時間が短くなり、それにより気泡底部の液膜がより高い熱流束まで保持されるメカニズムと考えられる。
4.結論 
ナノ流体、白金線を用いて行った大気圧より得られた結果を要約すると、
(1) TiO2のナノ流体により プール沸騰のCHFは、最大230%増大した。ただし、沸騰熱伝達率は小さくなる。
(2) ナノ粒子径が小さいほど、CHF向上率は高くなり、実機には粒子径が小さいナノ粒子を用いることが良い。
(3) CHFの増大率とぬれ性の向上は強く関連している。