表題番号:2012B-174 日付:2013/03/12
研究課題血小板分化における低酸素応答制御機構の解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 助手 金井 麻衣
研究成果概要
 現在本邦では数万人規模の血小板異常の疾患に対して、頻回の血小板輸血と平行しながら自己あるいは同種骨髄移植による治療が行われているが、ドナーの負担が多い割に回収できる血小板の産生量が少ない、頻回投与による自己抗体の出現などの問題が起こっている。これらの問題を解決するために、in vitroで血小板を分化誘導する技術の開発が強く求められている。
 近年、iPS細胞とは全く異なるシステムで、かつ遺伝子導入を用いずに、ヒトおよびマウスの脂肪組織由来前駆細胞より巨核球(血小板前駆細胞体)・血小板を誘導・産生できることが報告されてきた (Matsubara et al, BBRC, 2009)。しかしながら、その分化誘導効率は10-20%程度と低く、この技術導入による臨床応用に大きな障害となっている。そこで、本研究ではin vitroにおける効率の高い血小板技術を開発するために、低酸素応答システムを介した代謝の側面より、脂肪組織由来前駆細胞からの巨核球・血小板分化誘導機構の解明を目指した。この目的遂行のため、マウス脂肪前駆細胞(3T3-L1細胞)を用いて巨核球・血小板分化誘導の分子メカニズムの詳細な解析を行った。
 これまでに3T3-L1細胞を用いて巨核球・血小板分化過程のエネルギー代謝に関わる遺伝子発現変化を解析したところ、ミトコンドリア代謝におけるマスターレギュレーターのPGC1alphaが顕著に変化することを見い出した。
 そこで、本年度は巨核球・血小板分化過程のエネルギー代謝に、PGC1alphaが具体的にどのように関与しているのか調べるために、まずPGC1alphaをノックダウンさせるアデノウイルス(Ad-shPGC1alpha)の作製を行った。shRNAの配列が異なる6種類のアデノウイルス(Ad)ベクターshPGC1alpha(#1-6)の作製を試み、そのうち#1,2,5についてAdベクターおよびAd-shPGC1alphaが作製できた。3種類のAd-shPGC1alphaを3T3-L1細胞に感染させ、PGC1alphaタンパク質のノックダウン効率をwestern blottingにより検討した。その結果、感染72時間後にAd-shPGC1alpha#1で内在性のPGC1alphaの発現量の低下が見られた。現在、Ad-shPGC1alpha#1を3T3-L1細胞に感染させ、PGC1alphaのノックダウンが確認できた段階で分化誘導を行い、flow cytometry等により、巨核球表面タンパク質(CD41,CD42c)の発現量の変化、核の多倍化、ミトコンドリア量などにどのような変化が現れるのか解析を行っている。
 並行して、個体レベルで脂肪組織からの巨核球・血小板への分化誘導にPGC1alphaが重要な役割を担っているのか調べるために、マウスから摘出した皮下脂肪組織を培養し、Ad-shPGC1alphaによって内在性のPGC1alphaをノックダウンさせることができるのか、その後Ad-shPGC1alphaによりPGC1alphaがノックダウンできた細胞を分化誘導すると、巨核球の表面タンパク質の発現量や核の多倍化、ミトコンドリア量にどのような変化がみられるのか検討中である。
 さらにPGC1alphaを過剰発現できるアデノウイルス(Ad-PGC1alpha)の作製も行っている。Ad-PGC1alphaが作製出来次第、3T3-L1細胞やマウス脂肪前駆細胞に感染させ、PGC1alphaタンパク質の過剰発現が確認できた段階で分化誘導を行い、PGC1alphaを過剰発現させると分化誘導にどのような影響が現れるのか解析する予定である。