表題番号:2012B-171 日付:2013/03/22
研究課題難培養性アンモニア酸化細菌・古細菌の革新的分離培養戦略
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 常田 聡
(連携研究者) 理工学術院 助教 大坂 利文
研究成果概要
 硝化細菌(アンモニア酸化細菌・亜硝酸酸化細菌)は,自然環境における窒素循環,および浄水・排水処理における生物学的窒素除去プロセスを担う重要な細菌である。近年の分子生物学的な手法の発展により,硝化細菌は極限・非極限を問わず環境中に普遍的に生息し,系統学的な多様性も高いことが明らかになっている。しかし,高濃度の基質による阻害・遅い増殖速度・強い凝集性を持つために培養が困難であり,硝化細菌に対する有効な培養手法は未だ確立されていない。本研究では,連続流入式の混合型集積培養槽を用いた高度集積培養,およびセルソーターを用いた選択的分取による一連の新規分離培養手法を考案し,特に培養株の少ない貧栄養の淡水環境由来の硝化細菌の獲得を試みた。
 培養開始後350日目に集積培養槽から集積サンプル(硝化細菌占有率70%)を採取し,超音波分散処理およびフィルター濾過を行った。セルソーターのパラメーターを細胞の大きさを示す前方散乱光(Forward scatter; FSC)と細胞の内部構造を示す側方散乱光(Side scatter; SSC)に設定し,96ウェルプレート上で1ウェルにつき1つのマイクロコロニーが入るように分注した。FSCを大きくSSCを小さく設定した結果,硝化細菌の形成するマイクロコロニーを選択的に分取することに成功した。一ヶ月間静置培養を行い,増殖が確認されたものに対してシーケンス解析し,菌種を同定した結果,Betaproteobacteria綱に属するアンモニア酸化細菌を10株,Nitrospira綱に属する亜硝酸酸化細菌を15株獲得することに成功した。この中には,16S rRNA遺伝子の相同性が既存株Nitrospira moscoviensisと95%,既存株Nitrosomonas oligotrophaと95%の純菌株も含んでおり,高い新規性が得られた。さらに,淡水環境から亜硝酸酸化細菌Nitrospiraを獲得したのは世界初の快挙である。また,硝化細菌の他にも数種類の純菌株が得られていることから,本手法を応用することで様々な菌の獲得が可能であると期待される。