表題番号:2012B-170 日付:2013/04/11
研究課題ローコストスクリーニングによる癌代謝異常の解析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 仙波 憲太郎
研究成果概要
ゲノムワイドの遺伝子スクリーニングは生命現象の新たな制御系を発見するために必須の技術である。最近はこの目的で次世代シークエンサーが注目を集めているが、膨大なデータ量の創出とその解析に高額の研究費を要する。震災後、科学研究費においても危機的状況にある本邦においては、既存の技術や研究資源を統合する創意工夫を凝らしたローコストスクリーニングシステムを構築することが必要である。具体的には、近年注目を集めている癌の代謝異常に注目し、申請者の持つ遺伝子発現プロファイルと種々の公開データベースを横断的に解析し、三次元細胞培養系を組み合わせることで、ローコストの新規細胞制御遺伝子の探索システムを構築し、癌における代謝異常に関わる遺伝子をスクリーニングする。
申請者はこれまでに独自に作成した遺伝子発現データベースを用いて、乳癌の新たな遺伝子増幅領域(アンプリコン)を推定するし(Ito et al, FEBS Lett. 581,3909-14, 2007)、複数のアッセイ系でアンプリコンに存在する癌の増殖や浸潤に関わる遺伝子の同定に成功している。また、細胞分裂に応じて発現変動する公共の遺伝子データベース等を横断的に解析したin silicoスクリーニングとsiRNAによる機能解析により、細胞分裂を制御する新たな遺伝子を20種以上同定した。これまでのノウハウと研究資源を他の生命現象にも応用すべく、代謝異常を検出するMCF10A三次元培養系と、代謝関連データベース、書誌情報を統合させたローコストのゲノムワイド新規細胞制御遺伝子の探索システムを構築して、癌代謝を制御する遺伝子をスクリーニングすることを計画した。
今年度はこれまでに論文報告がなされている遺伝子について、結果の追試実験を行った。まず、セリンの生合成に関わるPHGDHをMCF10A細胞に導入し、マトリゲル中での三次元培養を行った。論文上は上皮細胞の極性が失われることが報告されていたが、これを再現することはできなかった。また、GLDCもまたNIH3T3をトランスフォームすることが報告されていたが、これも我々の細胞では再現を取ることができなかった。
以上の結果より、代謝に関わる酵素の過剰発現だけで癌細胞の形質を付与することが可能なのかどうか、実験系の構築から改めて考え直さなければならないと言える。