表題番号:2012B-155 日付:2013/04/09
研究課題インシリコ元素戦略に向けた相対論的量子化学理論の構築と実践
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 中井 浩巳
研究成果概要
本特定課題研究Bでは、元素戦略に必要な相対論的量子化学理論の構築を目指した。特に理論的な基盤となる次の2点を実施した。(1)局所ユニタリー変換(LUT)法による2成分相対論法の高速化(2)一般化非制限ハートリー・フォック(GUHF)法及びその電子相関理論(GUMP2)の確立。テーマ(1)では、周期表のあらゆる元素を含む物質・材料に対して、確証性の高い特性評価・機能設計を可能とするための相対論的量子化学理論の基盤構築を目指した。特に、2成分相対論法のうちで最も高精度な無限次ダグラス・クロール変換(IODK/IODK)法を基礎として、その弱点である莫大な計算コストを軽減するために局所ユニタリー変換(LUT)法を開発した。これにより、計算時間における線形スケーリング(計算時間が系の大きさに比例)および化学的精度(1 kcal/mol)を保った計算誤差が示され、本手法の有用性が確認された。テーマ(2)では、スピン依存部分を含むハミルトニアンでは様々な形式のスピン演算子が含まれることから、これらの形式に対応可能なGUHF法及びGUMP2を確立した。簡単な分子で数値検証を行った結果、従来の2成分相対論法では電子相関エネルギーを過剰評価する傾向があるが、本手法では4成分相対論法とほぼ同様の結果を与えることが確認された。これにより、電子相関効果と相対論効果を同時にしかも高精度に取り扱えるようになった。
本特定課題研究Bは、平成24年度科学研究費補助金基盤研究(A)(申請49,810千円)に不採択を受けて、平成25年度の再申請につなげるための研究費という位置づけであった。しかし、本研究代表者はさらなるステップアップを目指して、上記のような理論基盤を充実させたのち、科学技術振興機構(JST)が募集する戦略的創造研究推進事業(CREST)「元素戦略を基軸とする物質・材料の革新的機能の創出」に応募し、採択に至った。チーム全体の研究経費も290,000千円(うち研究代表者の研究経費は140,000千円)である。研究課題名も、本特定課題をさらに発展させた「相対論的電子論が拓く革新的機能材料設計」というものとした。