表題番号:2012B-154 日付:2013/04/02
研究課題コラーゲン様3重らせんペプチドの特異な動態特性を生かした薬物の開発研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 小出 隆規
研究成果概要
本研究は、コラーゲン様3重らせん構造をもつ合成ペプチドを、新しいDrug Delivery System (DDS)用キャリアー、あるいは薬物そのものとして利用することを目指して行われた。平成22~23年度に実施した科学研究費補助金挑戦的萌芽研究において、申請者らは経静脈的に投与したコラーゲン様3重らせんペプチドが、血中での高い安定性、血液指向性と尿排泄性を示すことを見出した。本研究では、①3重らせんペプチドの動態特性を決定づける構造パラメータの解明、および②血液指向性と尿排泄性を利用することにより、新しい薬物として応用できる可能性について検討した。

①3重らせんペプチドの動態特性を決定づけるパラメータの解明
 長さの異なる様々なコラーゲン様3重らせんペプチドの尿排泄性を調べた。その結果、(Gly-X-Y)n配列のnが12以上になると、尿排泄性は若干の低下を示し、血流への滞留性が高くなった。また、nが10のとき、3重らせんペプチドの定量的な尿排泄性は、分子の総電荷が+9~-3の間でほとんど変化がなかった。このことから、3重らせんペプチドの高い尿排泄性は、分子サイズにより影響を受けるが、イオン性の影響はほとんどないことが分かった。さらに、これら3重らせんペプチドの低い臓器移行性と高い血液指向性・尿排泄性は、マウスをもちいたin vivoライブ蛍光イメージングによっても確認された。

②血液指向性と尿排泄性を生かした新しい薬物としての応用可能性
i)薬物と3重らせんペプチドとのコンジュゲート化による薬物動態の改変
ニトロキシドラジカルを持つスピンプローブであるProxylをモデル薬物として、コラーゲン様3重らせんペプチドとのコンジュゲート化によるin vivo動態特性の改変を試みた。マウスを用いた動態解析の結果、経静脈的に投与した低分子量親化合物3-carbamoyl-Proxylは、速やかに臓器に分布し、ほとんど尿排泄されなかった。一方、Proxylを3重らせんペプチドとコンジュゲート化したものは、ほぼ定量的に尿中に排泄された。このことから、コラーゲン様ペプチドとのコンジュゲート化は低分子量薬物の動態特性を改変するために利用できることが示された。

ii) in vivoで酸化ストレスを検知する検査薬への応用
上記i)で合成したProxyl-ペプチドコンジュゲートを、全身の酸化ストレスをモニタするためのプローブとして利用した。尿中に排泄されたProxylのニトロキシドラジカルは、尿の電子スピン共鳴(ESR)測定により定量できる。健常マウスと酸化ストレスマウスにProxyl-ペプチドコンジュゲートを投与し、採取した尿のESRを測定すると酸化ストレスマウスでは有意にESRシグナルの相対的減少が見られた。