表題番号:2012B-153 日付:2017/03/23
研究課題糖類の高感度分析のためのボロン酸試薬の開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 石原 浩二
研究成果概要
 助成費が少額であったため、「糖類の高感度分析のためのボロン酸試薬の開発」に関する基礎研究として、糖とボロン酸の反応における反応活性種の特定を行った。
 今日、糖の分光光度定量のためのボロン酸誘導体は、数多く報告されているが、それらの定量の反応中心はボロン酸(RB(OH)2)部位と糖との反応である。これまで、ボロン酸による糖の定量の分野では、糖の定量がpH 10前後のアルカリ性で行われることから、反応活性種はRB(OH)2ではなく、その共役塩基であるRB(OH)3– のみであるとされてきた。しかし、近年我々は、ボロン酸とpKaの高いエチレングリコールやプロピレングリコールとの反応において、このことは誤りであり、主要反応活性種はRB(OH)2であることを実験的に示した。
 本研究では、ボロン酸と糖との反応においてもこのことが正しいのか否かを実証するために、ボロン酸としてフェニルボロン酸とベンゾオキサボロール、糖としてD-フルクトースをもちいて、反応速度論的・平衡論的測定を行った。
 糖の濃度が大過剰の条件下で、吸光度の時間変化を追跡したところ、いずれのボロン酸の場合も反応は二段階で進行することがわかった。一段目の反応は、糖の濃度にもpHにも依存したが、二段目の反応は、微小な変化であったため再検討の余地はあるが、依存性はほとんど認められなかった。D-フルクトースは、NMRにより詳しく研究されており、水溶液中で存在する五種類の異性体の存在比が決定されている。それらを参考に考察すると、ボロン酸と反応しているのは、主にβ-D-フルクトフラノースであると考えられる。したがって、一段目の反応は、β-D-フルクトフラノースがそれぞれRB(OH)2とRB(OH)3–に二座で配位する反応であり、また、二段目の反応は、β-D-フルクトフラノースが二座配位から三座配位に変わる反応であるか、或いは他の存在比の低い異性体との反応であると考えられる。一段目の反応の速度定数を詳しく解析した結果、D-フルクトースとフェニルボロン酸およびベンゾオキサボロールとの反応においても、エチレングリコールの反応と同様、主要反応活性種はRB(OH)2であることが明らかとなった。