表題番号:2012B-150 日付:2013/03/30
研究課題溶液の流動を伴う結晶成長の実験的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 山崎 義弘
研究成果概要
点源からの周期成長の結果、その周期成長の起源が系により本質的に異なっているにもかかわらず、共通して同心円状パターンが生み出されることはよく知られている。例えば、BZ反応によるターゲットパターン、バクテリアの増殖・移動による同心円状コロニー形成、
ゲル中での沈殿(析出)によるリーゼガング・リング、薄膜状になった有機分子溶液や高分子溶液からのリング状結晶成長といった様々な系で同心円状パターンを観察することができる。
これまで、有機分子系の一つであるアスコルビン酸の薄膜状溶液からの結晶成長については、パターン形成の物理という観点に基づいた実験的研究の報告がいくつかなされてきた。これらの先行報告に従って、これまで確認されている(confirm)実験事実は以下の様にまとめられる。先ず、溶媒の蒸発により溶液が準安定状態となる。準安定状態となった溶液の流動性は低湿度下において極めて低くなり、
soft solid、amorphous、glassyと表現される状態となっている。その後、核生成により結晶成長が開始する。
ここで注目すべき点として、結晶の成長モードが環境の湿度に依存して変化することが挙げられる。実際、湿度が高くなるに従って、結晶の成長モードは二種共存、均一、周期、分岐へと変化することが分かっている。以上の実験事実は、水溶液、メタノール溶液いずれの場合も共通している。
なお、アスコルビン酸の結晶成長における周期成長の先行研究においては、2002年に上坂らが周期成長の要因として次の2つの点を示唆した。(1)結晶(針状結晶)成長に伴い放出された溶媒による、成長フロントの近傍にあるガラス状溶液の局所的な流動化。
(2)針状結晶の間に生じる隙間(ボイド)。彼らの解釈では、成長フロントの近傍で局所的に流動化した溶液が結晶間の隙間に吸収され、フロントの前方に溶液がなくなることで結晶成長が停止し、その後、部分的に結晶と接している溶液から再度結晶化が始まることで周期性が現れるとしている。さらに、均一成長においてはこのような溶液の局所的な流動化が観られなかったことから、上記の2点が周期的成長と均一成長の違いを引き起こしていると結論づけている。
しかしながら、この解釈は次のような点において、周期成長の説明としては不十分ではないかと思われる。先ず、上記の解釈には各成長モードおよびその変化に対する湿度依存性が全く考慮されていない。また、結晶成長時の溶液全体の流動については詳細な報告がなされていない。
以上の問題意識に基づいて、本課題研究では、薄膜状となったアスコルビン酸水溶液からの結晶成長について、均一成長から周期成長への変化について、溶液の流動性に着目して実験を行った。その結果、均一成長においても溶液は流動しており、湿度が高くなるに従って流動性が高くなるなることを確認した。さらに、均一成長・周期成長において、結晶成長先端の20~30μm前方に溶液の薄くなっている領域が形成し、10μm前方までは流動領域が存在することを確認した。これらの結果により、局所的な流動化領域の有無は転移に関係ないことが結論づけられる。