表題番号:2012B-149 日付:2013/04/05
研究課題軌道秩序状態におけるドメイン壁の構造とダイナミクス
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 勝藤 拓郎
研究成果概要
BaV10O15のoffstoichiometryによる軌道整列相転移の変化
BaV10O15は~120KでV三量体を形成する構造相転移を起こし、電気抵抗が3桁程度上昇すること、この三量体相転移がVのt2g軌道の整列に由来することが知られている。また120~200Kの中間温度相では局所的にV三量体が形成され、それが帯磁率や電気抵抗の温度依存性にも異常として現れる。我々は、この物質の作成条件を様々に変化させてoffstoichiometryを導入すると、三量体相転移温度が次第に減少していき、ついには相転移が消失することを見いだした。さらに、三量体相転移温度が減少すると、中間温度相での異常も消失していくことが分かった。また、offstoichiometryを導入して転移温度が消失した結晶の光学測定を行い、相転移のある試料の結果と比較した結果、低温でのギャップ構造がoffstoichiometryな試料では明確には観測されないこと、また(転移温度より上の)中間温度相の光学スペクトルの様子も、相転移のあるなしで異なる振舞いを示すことを明らかにした。

BaV10O15の中間温度相における非線形伝導
強電場下で電流が電場に比例しなくなる非線形伝導は様々な物質で報告されているが、「正しい」測定は容易ではない。これは強電場、大電流下では試料自体が発熱するため、温度変化に由来する電気抵抗の変化と区別がつかなくなるためである。我々は、パルス電場下での試料の発熱の効果を詳しく調べた結果、パルス幅の間に温度が上がる効果と、パルス印加を繰り返すことによって温度が上がる効果の両方を考慮する必要があることを見いだした。この知見をもとに、BaV10O15の非線形伝導を、パルス幅100μsの短いパルスを用いて、0.1%の小さなduty cycle(=パルス幅/パルス間隔)で測定することにより、試料自体の温度上昇を防ぎ、本質的な非線形伝導を測定することに成功した。その結果、120~200Kの中間温度相で電場印加とともに抵抗率が減少する非線形伝導を見いだした。