表題番号:2012B-135 日付:2013/04/07
研究課題化学反応と連携した新規酵素反応プロセスの開発とプロリン含有ペプチド合成への応用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 木野 邦器
研究成果概要
アミド結合を有する化合物には機能性の高い有用物質が多いが、化学合成法では工程が煩雑で多量の縮合剤を必要と課題が多い。我々は無保護のアミノ酸を直接連結(アミド結合)してジペプチドを合成するアミノ酸リガーゼを数種類見出しているが、合成可能なジペプチドの種類に限度がある。とくにプロリンをC末端に配置するジペプチドやトリペプチドには血圧上昇抑制作用など有用な生理機能を有するものが多いが、従来のアミノ酸リガーゼでは合成困難なペプチドであった。
Non Ribosomal Peptide Synthetase (NRPS)は、放線菌や糸状菌でリボソームとは独立してペプチド性二次代謝産物の生合成を行う巨大酵素複合体で、ペプチド合成量が少なく工業的利用は困難であるとされている。最近、我々はペプチド抗生物質チロシジンの合成を担うNRPSのモジュールの一つであるTycAを単独利用した場合、C末端にプロリンを配する直鎖状ジペプチドXaa-L-Proを高収量(~g/L)で合成できることを明らかにした。ジペプチドの生成量はプロリン濃度に依存して増大し、D-体を含むプロリン誘導体に対してもジペプチド生成が可能であることから、TycAによりチオエステル化したアミノ酸に対してプロリンのような求核活性を有する化合物が化学的に作用してジペプチドが合成されるものと推察した。実際に、TycAによってチオエステル化されたアミノ酸に対して、求核剤としてはプロリンのようなアミノ酸に限定されず、メチルアミン、ジメチルアミン、4員環から8員環までの環状アミン、さらにβ-アミノ酸やγ-アミノ酸各種アミンともアミド結合を形成することを見出した。また、求核剤となるアミノ酸のキラリティーはそのまま維持され、かつ多くのアナログ(ヒドロキシプロリン等)も取り込まれ、対応する酸アミド(ジペプチドあるいはトリペプチド)の合成も可能であることを明らかにした。基質アミノ酸活性化の観点からアデニル化に着目し、A-domain(TycA_A)のみを用いた場合にも種々のアミンを求核剤として用いることでアミド結合の形成が可能であると予想した。予想通り、ほぼ同様にアミド化合物合成が可能であった。この場合、T-domainによるチオエステル化によるホロ酵素化が必要ないため、ホスホパンテテイン転移酵素およびCoenzyme Aを必要としない簡便な合成プロセスの構築が可能で、工業的にも有用であることが示された。
また、起源の異なるNRPS由来のA-domainを利用して当該反応機構の一般性を検証した。L-アスパラギン酸(L-Asp)をアデニル化するBacitracin合成酵素由来のAドメイン(BacC4_A)を用いて反応を実施した。BacC4_Aの基質をL-Aspとして、求核剤をL-Proとする反応を行ったところL-Asp-L-Proの生成を確認できた。以上の結果から、NRPSのAドメインによる基質アミノ酸のアデニル化とそれに続く求核剤の求核置換反応によりアミド結合形成が可能であることが示され、化学反応と連携した革新的かつ汎用性の高いアミド化合物合成プロセスの開発可能性を確実にした。