表題番号:2012B-134 日付:2013/04/07
研究課題アミノ酸リガーゼの立体構造解析とオリゴペプチド合成法の開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 木野 邦器
研究成果概要
近年、ペプチドの持つ有用な物性や機能性に着目した開発研究が医薬品・食品・化粧品などの様々な分野で展開されている。我々はこれまで、微生物由来酵素であるL-アミノ酸リガーゼ(Lal)を利用したペプチド合成研究を展開してきた。Lalは保護基を持たない遊離のアミノ酸を基質としてATPの加水分解反応と共役してペプチドを生成するため、発酵法などの環境負荷低減型合成プロセスへの応用展開が可能であり、物質生産において非常に優位性の高い酵素であると言える。他の研究グループの成果も含めると、様々な微生物から約20種類のLalが取得されているが、結晶構造を解くことに成功しているLalは、現在までに2例のみである。そのため各酵素に特有な基質特異性や合成されるペプチド鎖長を制御する機構を解明するためには、さらなる立体構造情報の取得が不可欠である。本研究では、複数種類のLal立体構造を明らかとし、これらの情報からLalの構造と機能との相関を考察することで上記課題を解決することを目的とした。
1.1.Bacillus subtilis NBRC3134由来RizAの結晶構造解析
構造解析の研究対象として、Bacillus subtilis由来のRizAおよびRizBと命名した2種類のLalを選択した。両酵素ともB. subtilisにおいてRhizocticinと呼ばれるペプチド性抗生物質の合成に関わる酵素であり、RizAはアルギニン(Arg)をN末端に配したジペプチドを特異的に合成し、一方でRizBはバリン(Val)やロイシン(Leu)などの分岐鎖アミノ酸を中心としてオリゴペプチドを合成するLalである。RizAに関しては、これまでにネイティブ酵素の単結晶から2.0Åの良好なX線回折像を得ることに成功しており、さらには多波長異常分散法による位相決定を目的としてSe-Met置換型RizAの精製工程の確立ならびに単結晶の取得にも成功している。そこで、取得したSe-Met置換型RizAの単結晶を大型放射光施設Photon factory(つくば)にてX線解析試験を行った。その結果、最大解像度2.8Åの反射を得ることに成功し、先のネイティブ酵素のデータと併せて解析することで位相の決定ならびに構造計算からRizA立体構造を解くことに成功した。
RizAの全体的な構造は既に取得されている2種類のLal(YwfE:PDB ID 3VMM, BL00235:PDB ID 3VOT)の立体構造と類似しており、構造を重ね合わせた結果では、特に活性中心付近での重なりが良好であった。また、活性中心においてはRizAのN末端基質Argに対する基質特異性を決定する因子として、適切な位置に酸性アミノ酸が位置することを確認した。したがって、これらの間に電荷による相互作用が働くことで塩基性アミノ酸Argが強く認識されている可能性が示唆された。一方、RizAのC末端側のアミノ酸基質に対する特異性は低く、様々なアミノ酸が取り込まれることが確認されている。RizA構造において、C末端のアミノ酸が配すると推定される基質ポケットが空間的に広くなっており、側鎖の小さなアミノ酸から大きなアミノ酸まで許容されることが示唆された。
1.2.B.subtilis NBRC3134由来RizBの結晶構造解析
RizBに対してはこれまでにネイティブ酵素の精製工程を確立している。そこで精製RizBの結晶化スクリーニングを実施した。しかしながら、種々の条件を検討したが単結晶を得ることはできなかったことから、検討対象を変更し、RizBと同様の活性を示すBacillus licheniformis NBRC12200由来BL02410(一次配列相同性:約60%)について検討を行うこととした。晶析条件を見直したところ、期待通り単結晶を取得することに成功した。続いて行ったX線回折試験では、最大解像度3.0Åの反射を得ることに成功した。