表題番号:2012B-133 日付:2013/04/05
研究課題キノイド系有機負極を用いた超高密度エネルギー変換系の創発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 小柳津 研一
研究成果概要
キノン類の速い電子授受に着目し、アントラキノン置換ポリマーによるn型電荷輸送の実現とこれを負極とする有機空気二次電池の実証を起点として、卑な電位での電子交換反応に立脚した導電・蓄電現象に関わる基礎科学を確立することを目的とする。具体的には、有機負極として働くポリマーの拡充を斬新なn型レドックス席の創出と電荷輸送・貯蔵過程における電子・イオン輸送の解明を基軸とした普遍化により計り、ヘテロ接合面のボトムアップ集積に立脚した高速輸送性および界面での交差反応に基く整流性発現を、ロッキングチェア型電荷補償やpnバイポーラ性を持たせた多様な電荷貯蔵形態の実証を経て超高密度蓄電物質の創出へと繋げ、化学・電気エネルギー変換に関連した有機物性化学の新領域を開拓することを目指して研究展開した。
この結果、負電荷の高密度蓄積すなわちn型ヘビードーピングが可能な斬新なn型レドックス席と主鎖構造を絞り込み、形成されるレドックス勾配から電荷輸送の駆動力を引き出すための方法論を導出できた。また、レドックス席間の電荷・物質移動過程を解析し、電子交換をポリマー内で連続的に生起させ、可逆的・高速かつ高密度な電荷貯蔵の要件を明確にした。さらに、レドックス凝縮相による電荷輸送の概念を拡張し、分子細線としての共役鎖を組込んだ複合系に踏み込むための手掛かりを明確にした。以上を組み合わせて、n型ポリマーをLi負極と組合せたロッキングチェア型電荷補償による高エネルギー密度化、pnバイポーラ性に基づく極性フリーの電荷貯蔵形式、酸素極と組合せた空気二次電池、光負極を導入した光空気二次電池など、多様な蓄積形態が可能な電荷貯蔵物質としてのアイデアを確立した。
このような非共役キノイドポリマーを活物質とする概念自体は新規性が高く、有機空気電池の実証を成功例として展開し成果集積の道筋をつけた。電極反応や光反応の多くが一電子移動に基づき不安定なラジカル種を経由する点に着目し、電荷保持力や化学安定度を高める観点から2電子反応に焦点を絞る発想に学術的意義を期待している。有機ポリマー合成を手段とすることにより、無機材料にない光・電気応答の実現、高密度・高速化を具体化するとともに、ポリマー内の迅速かつ可逆的な電荷・物質移動を制御し、高密度エネルギー変換をソフトマテリアルの応用の一つとして位置づけることが可能となってきている。