表題番号:2012B-131 日付:2013/04/12
研究課題情動・神経の働きを含んだ模擬循環器系に関する構成論の解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 菅野 重樹
研究成果概要
 本研究の目的は,生物の循環器系システム及び循環器系を制御している情動システムや神経回路網の働きを工学的に模擬することにより,生物に近い循環器系システムを生物の血液循環器系を模擬したシステムを構築し,これを機械をはじめとした様々なシステムに応用することにある.
 神経系とホルモン系をシステムに組み込むと極めて煩雑なシステムになってしまうため,本年度はまず人工血液(片栗粉と水とエタノールの混合液)とポンプ,エタノール燃料電池,フィルター,チューブを用いた単純なシステムを構築した.1)断裂したチューブの修復,2)温度調整(水冷),3)フィルターを用いた混合液からのエタノール分離による燃料電池へのエネルギー供給の3つの機能を有する血液循環器系システムを構築し,その有効性を確かめた.システム構築の過程で周期的なパルスで混合液を送液するポンプ(拍動流ポンプ)と一定量の混合液を送液するポンプ(無拍動流ポンプ)の凝固作用の差異を確かめることを目的としたチューブの破壊・修復実験を行い,拍動流ポンプを用いると人工血液の凝固が促進されることを確認した.また拍動流はフィルターの目詰まり防止にも有効に働き,無拍動流ポンプでは数分でフィルターの目詰まりが生じてしまいエタノールの抽出が不可能になったが,拍動流ポンプでは長時間安定してエタノールの抽出が可能であった.
 拍動流が液体の凝固を促進することは確かめられた事例はなく,また本研究の結果を医学的観点から見ると血液の凝固と拍動が関係していると考察されるため,このシステムが医療分野の研究にも有用であることが示唆される.また,このシステムの3つの機能は,システムの恒常性を保つために必要な機能であり,これらの機能を流体と拍動流ポンプのみを用いて実現できた工業的な意義は大きい.
 今後は本年度製作したシステムに,神経系や情動系を模倣したシステムを組み込むことにより,より医学的に意義のあるシステムや工業的に有用なシステムを構築し,新たな知見や工業的なアプリケーションを開発していく.