表題番号:2012B-129 日付:2013/04/25
研究課題医療レギュラトリーサイエンスの学問構築を支える究極型循環シミュレータの開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 梅津 光生
研究成果概要
 日本胸部外科学会の報告では,弁膜症手術数は1997年から2009年の間に約2倍に増加しており,弁膜症外科治療の重要性は今後も増していくと考えられる.僧帽弁置換術においては,人工弁置換による左心室機能の低下,弁輪サイズの制限や長期間の抗凝固療法といった課題が残されている.このような状況を改善するために加瀬川均医師(榊原記念病院)が考案されたのがヒトの僧帽弁構造と類似したステントレス僧帽弁(NORMO弁)である.ステントレス僧帽弁は弁膜・乳頭筋の連続性が保持され,弁尖がステントに支持されないという世界に類をみない独創的な人工弁である.本研究では,ステントレス僧帽弁の流体性能を評価するため, 空気圧駆動装置を内蔵した拍動型循環シミュレータを用いて (1)機械弁とステントレス僧帽弁の流量性能比較評価,(2)弁吻合位置が拍出流量に与える影響の検討,(3)弁葉の形状が流量性能に与える影響の3点を検討した.以下にその結果を概説する.
(1)機械弁とステントレス僧帽弁の流量性能比較評価
 ステントレス僧帽弁の普及を目指し開催されたトレーニングセミナーにより,未経験医師が初めて製作した弁を用い性能評価を行った結果,比較対象とした機械弁(N=7)の平均流量は3.55±0.12L/minであったのに対して,加瀬川医師が製作したステントレス僧帽弁(N=8)の平均流量は4.72±0.35L/minと圧倒的に高い流量を拍出できることがわかった.一方,未経験医師が製作したステントレス僧帽弁4個はそれぞれ4.32 L/min,3.85 L/min,3.64 L/min, 3.35L/minであり,ばらつきがあった.しかし,未経験医師が製作したステントレス僧帽弁1個を除き,すべての弁が機械弁と同等以上の性能を示した.低流量であった弁に関しては,外科的に弁葉に改良を加えたことで流量が3.75L/minとなり,機械弁と同等以上の流量が確保できた.
(2)弁縫合位置が拍出流量に与える影響の検討
 ステントレス僧帽弁植え込み時における乳頭筋部への縫合位置が拍出流量に与える影響を検討した結果,縫合位置が心臓壁側において流量が最大となり,ステントレス僧帽弁の乳頭筋への縫着位置は現在採用されている心臓壁側が妥当であることが判明した.
(3)弁葉の形状が拍出流量に与える影響の検討
 ステントレス僧帽弁の弁葉の形状が拍出流量に与える影響を検討した結果,弁葉の切り込み形状を2~8mmの範囲で変えても弁性能は3.44~3.81L/minで大きな影響を与えないことが分かり,未経験医師でも十分に性能の良好な弁を製作できることが判明した.
以上のごとく,循環シミュレータの応用の一つとして,新しいコンセプトのステントレス僧帽弁(NORMO弁)の非臨床データとしての特性の位置づけができたものと考えている.