表題番号:2012B-124 日付:2014/02/26
研究課題摩擦振子型免震機構付き橋脚を有するダメージフリー橋梁の開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 秋山 充良
研究成果概要
 兵庫県南部地震以降,耐震解析手法には長足の進歩が見られるのに対して,地震動評価には依然として圧倒的な不確定性が存在する。このような不確定性に対峙し,構造物の地震時安全性を確保するためには,地震動の不確定性の影響を受けないほど構造物の性能を高める必要がある。これまでのコンクリート系の橋梁耐震部材の開発では,この手段として部材靭性率を大きくしてきた。例えば,インターロッキング式帯鉄筋を有する鉄筋コンクリート(RC)橋脚,軸方向鉄筋や帯鉄筋の配筋方法,あるいはコアコンクリート内にスパイラル鉄筋を配筋するなどの工夫をしたRC橋脚,そして,鉄骨鉄筋コンクリート橋脚などの研究がある。しかし,このような部材変形能により地震エネルギーの吸収を期待した構造では,地震後に相当の残留変位が生じる可能性がある。橋梁は,地震後の救助・救急活動や,都市の復興に非常に重要な役割を果たすことを考えると,単に橋梁の地震中の安全性を確保するだけではなく,地震後の供用性までを考慮した部材開発が求められる。
 この背景のもと,摩擦振子型免震機構を有するコンクリート柱を提案し,その振動台実験により,基本的な性能を確認した。橋脚を2つの部位に分割し,分割した位置に滑り曲面を設けている。上側にある部位(摩擦振子)が滑り曲面上を滑り,下側にある部位(滑り曲面を有する橋脚や基礎など)に作用する地震時慣性力を低減する。従来の曲げ破壊型のRC橋脚は,橋脚天端部に水平力が作用するとその下端部に大きな曲げが作用するのに対して,本構造は,滑りにより力の伝達を遮断し,さらに曲面の存在により地震後の残留変位を抑えることを期待している。
 しかし,既発表の内容では,摩擦振子が半径一定の曲面(定曲面)上を滑るため,大きな地震力を受けると,桁の水平移動に伴いその上方への変位(アップリフト)や,橋脚下端に作用する地震時慣性力が大きくなり,橋脚の下端部や基礎などが損傷する可能性がある。これを避けるためには,半径の大きな曲面を用いることが考えられるが,その場合には,摩擦振子の原点回帰が期待できず,地震後に大きな残留変位が生じることが懸念される。
 そこで,本研究では,摩擦振子が滑る曲面の形状を工夫することで,上記の問題の解決を試みた。具体的には,水平変位が小さいときには下に凸の小さな半径の曲面上を摩擦振子は滑り,さらに大きな地震力の作用を受けて水平変位が大きくなったときには,上に凸の曲面,あるいは直線上を滑るように曲面形状を変更した。この工夫をしたコンクリート柱を持つ橋梁模型を作製し,その振動台実験により地震応答特性を確認した。結果として,半径一定の滑り曲面を用いた場合に比べ,変動曲面上を摩擦振子が滑る場合には,コンクリート橋脚の下端部に作用する地震時慣性力を低減でき,一方で地震後の残留変位も大きくならないなど,その耐震性能を改善できることを示した。