表題番号:2012B-114 日付:2013/11/11
研究課題19世紀末ウィーン・建築家アドルフ・ロース 未邦訳論稿全邦訳とその史的評価
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 中谷 礼仁
研究成果概要
アドルフ・ロース(Adolf Loos, 1870-1933)が残した論考の全邦訳(全3巻)を本研究の第一義とする。本研究は、2009年度より活動をスタートし、2012年3月には、第一集『Ins Leere Gesprochen』(Adolf Loos. 1921.)の完訳版である『虚空へ向けて』(アセテート出版)を出版した。
本助成交付期間である2012年度より、著作第二集にあたる『Trotzdem』(Adolf Loos. 1931.)の翻訳に着手した。さらに翻訳活動と並行して日本近代建築史におけるアドルフ・ロースの研究を、基礎研究としておこなった。

これらの成果を以下にまとめ報告とする。
①著作第二集の邦訳スタート
②西洋モダニズム運動の受容過程に関する研究
③関連資料の蓄積

①著作第二集の邦訳スタート
・翻訳作業
ロースによる論考のテーマは多岐に渡り、建築史、ウィーン史、ドイツ文学など多角的な視点が必要となるため、2010年度までに翻訳検討組織を結成した。助成期間である2012年度も、それまでの活動体勢を継続し月 2 回の翻訳検討会議を開催、訳文の読み合わせおよび訳注箇所の検討をそれぞれの専門的視点から行った。本助成の一部はこれら翻訳検討会議に関する運営費(翻訳者への謝金、印刷費、録音テープなどの雑費、関連資料購入費)に充てた。
・訳注作成
ロース論稿の読解に際し、その訳文に対して実証的な裏付けが必要不可欠となった。ロースの論稿には職人の名や地名といった数多くの固有名詞が登場する。しかしながら、現代においては詳細が不明な部分も多く、その批評対象を明瞭にし、論考の真意を正しく捉えるため、当時の資料ならびに文献の入手を行い訳注作成をおこなった。
・研究
これら未邦訳論稿の読解に伴う研究を、学生の修士論文・卒業論文として三題発表した。以下が、そのリストである。

修士論文
癸生川まどか「ウィーン20世紀初頭における芸術家の組織化に関する研究―アドルフ・ロースとその批判対象であるウィーン分離派、ウィーン工房との比較を通して―」
斉藤亜紀子 「アドルフ・ロースの家具調度による空間計画の研究」
原功一   「西洋モダニズム建築の受容過程―「アドルフ・ロース」をとりまく一断面―」
卒業論文
浦上卓司「アドルフ・ロースのプロダクトデザイン」
渡辺周 「パリのアドルフ・ロース―近代ヨーロッパの中央と周縁―」

②西洋モダニズム運動の受容過程に関する研究
日本近代建築史からみたロースの研究をおこなった。本研究は、日本のモダニズム受容の過程において、ロースがどのようなコンテクストのなかで引用・紹介されてきたのかについて明らかにすることを目的とした。日本の建築系雑誌を通覧し、ロースに関連する資料を収集した。これら収集したロース紹介記事を、時系列に分析し、それら記事の執筆者等を軸に、影響関係明らかにした。
これら研究により、ロースの基礎資料収集のみならず、ロース研究に新しい視座を加えることができた。これら一連の研究成果は、2013年度の建築学会大会(北海道)で報告予定である。以下にその論文題目を掲げる。

本橋仁「西洋モダニズム運動の受容過程に関する研究 1 ―アドルフ・ロースの日本への紹介―」
原功一「西洋モダニズム運動の受容過程に関する研究 2 ―戦前日本におけるアドルフ・ロースの紹介―」

③関連資料の蓄積
上記①②の活動を進行するにあたり、関連書籍の入手が必須であった。2011年度には本助成を利用し、翻訳対象である『Trotzdem』の初版、また日本国内では入手困難な書籍を随時購入した。また海外文献のみならず、日本においてロースがどのように定着していったのかという受容過程の研究につなげるため、当時の日本で発行された雑誌などを中心に資料収集を進めた。