表題番号:2012B-106 日付:2013/04/12
研究課題物理光学現象を利用した三次元音場の記録
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 山崎 芳男
研究成果概要
 一般に音は膜の振動を電気信号に変換する,マイクロホンを音場内に設置して収音するが,録音や音響測定においてマイクロホンが音場に影響を及ぼす。測定器が音場へ与える影響を与えることがないように,正確な音場の記述を目的として、光の屈折と回折の検知により空間の任意の位置の音圧および粒子速度を同時に捉える集音技術の確立を目指し、レーザドプラ振動計(LDV)とフォトダイオードを組み合わせた測定系を実現し,音速と粒子速度の同時観測の可能性を示した。また,粒子速度の絶対量測定を目指し理論的検討を行った。

研究成果
 我々は光を利用した可聴音の音圧の測定については、既にレーザを利用したドプラー振動測定系(LDVを)用いた手法を本庄の音響実験棟において世界で初めて確立した。
本研究では音場をとらえる上でもう一つの重要な物理量である粒子速度の光による直接測定技術の確立を目標とし, LDVとフォトダイオードを組み合わせた測定系を構築した。粒子速度測定は,音波に起因する媒質の密度勾配で生じる光の微弱な偏向をフォトダイオードで検出する方法を用いた。作成した測定系は, LDVによる音圧測定と同時に,同じLDVの光源を利用してフォトダイオードにより検出,粒子速度を得るものである。
 この測定系の妥当性を検討する目的で音響管内の音場の観測を行った。定在波が発生している音響管では,空気の密度勾配は音圧の腹の位置で振幅が最小,音圧の節の位置で最大になる。そこで音響管の音圧の腹と節の位置に穴を開けてレーザを通過させて測定を行った。LDVによる音圧の測定においては,音圧の腹の位置に対して音圧の腹の位置では9 dBの上昇,フォトダイオードによる測定では同じく17.6dBの下降を示しLDVとフォトダイオードによる測定はそれぞれ相反する傾向を示し、音圧と粒子速度の検出が示唆された。
 また音響管に開けた穴により管内の定在波が影響を受ける事を考慮して,LDVを用いた音響管内全体の音場の観測を併せて行った。穴の有無および穴の位置の異なる3種類の音響管について比較を行った。三者とも同様の定在波が観測されたことから,穴を開けたことにより定在波の受ける影響は軽微であることを確認した。

今後の研究計画と予想される成果
 本研究により,光による粒子速度の観測に可能性が示されたが,偏向が密度勾配に由来する事の理論的検証を進める。また,マイクロホンなど音場に影響を与えない、音圧と粒子速度の厳密な理論構築を行うことにより、粒子速度の絶対量の測定を可能にするとともに,3次元音空間の実用的な把握手法の確立を目指して研究を進めていく所存である。