表題番号:2012B-101 日付:2013/05/06
研究課題液中表面ナノ改質を用いた人工神経細胞回路の形成と神経回路数理モデルの実験的検証
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 谷井 孝至
研究成果概要
脳の高次機能の理解と脳型機能の創発は現代に残された大きな課題の1つである。しかしながら、未だ記憶や情動のメカニズムの理解には至っていない。この理由は、実神経細胞を用いて、脳中の局所神経回路を人工的に再構成できないことにあると考える。あたかも“基板上に電子回路を作製するがごとく”任意の神経回路を基板上に再現できれば、回路の諸定数とその動作を詳細に調べることができ、脳機能の解明を大きく前進させるはずである。

この目的のために、我々は、酸化チタンの光触媒能を活用して、複数の神経細胞を要素とする任意の局所回路をガラス基板パターン上に再構成することを試みた。その結果、下記の進展および達成があった。

1)昨年度に独自に発見した「神経細胞が接着した後、神経突起を伸長できる長さを非対称的に1本だけ長く伸長できるように、細胞接着阻害領域を予め作成しておくと、その長い1本が優先的に軸策となる」という現象に関して、他グループから報告されている「神経突起に加わる応力が軸索/樹状突起の分化を決定する」という現象と矛盾するかどうかを調査した。このために、突起伸長を誘導するパターン形状の長さだけでなく湾曲も加えることにした。パターン湾曲による曲率の変化により、神経突起に加わる応力を制御できる。結果は、パターン湾曲の有無に依存せず、最終的に最も長く伸長できた突起が優先的に軸索に分化することを確認した。

2)マイクロパターン基板上に培養神経細胞をパターニングし、Ca2+イメージングによって神経回路の自発活動を計測することに成功した。寸法の異なるパターン上の神経回路の活動を比較したところ、神経回路の大きさが増加するとともに平均発火頻度が増加することが分かった。また、たかだか十数個の細胞からなる神経回路でも自発活動が発生することを確認することができた。これは、従来考えられていたよりもはるかに少ない数の素子数からなる神経回路においても、cell assemblyとしての機能を持ちうることを示唆している。

上記の結果は、任意の神経回路をガラス基板上に再現するための要素技術が整ったことを意味する。