表題番号:2012B-098 日付:2013/04/10
研究課題オンライン手書きデータからの学習つまずき発見
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 山名 早人
研究成果概要
本研究では,漢字書き取りや読み取り,大学入試センターの選択問題を題材として,被験者の「記憶度」を推定することを目指して研究を行った.従来,例えば単語帳や漢字練習帳のようなアプリケーションでは,被験者が正解すれば「記憶している」とコンピュータ側で解釈を行っていた.しかし,被験者が必ずしも「記憶している」わけではなく,たまたま正解したが「記憶はあいまい」といったケースがある.こうしたケースを判別できれば,被験者の学習状態をより的確に把握することができ,学習教材開発に大きく貢献することができる.さらに,本学が進めるCourseN@viを含めた遠隔教育への応用も可能である.


従来,効率的な学習指導を行うために,学習状態を機械的に推測する研究が行われている.学習状態推定の研究分野では,これまでデスクトップ環境を前提とした研究が広く行われてきている.一方で,教育現場ではタブレットデバイスの導入を積極的に進めており,今後タブレットデバイスを用いた学習状態の推定は重要度を増していくと考えられる.そこで本研究では,タブレットデバイスから得られる情報を用いた学習状態の推定手法を提案した.


具体的には,段階別の記憶度評価を行うことが可能かどうかについて予備実験を実施した.予備実験では,専門分野が多様な大学生男性15名,女性15名の計30名に実験を依頼した.出題した問題は,易しい漢字の書き取り問題として漢字検定8級,難しい漢字の書き取り問題として漢字検定2級の問題と準1級の問題,易しい漢字読み取り問題として漢字検定8級,難しい漢字の読み取り問題として漢字検定2級と準1級の問題を用いた.


その結果,「問題における正答を『完全に記憶している』『迷いながら正解した』の2値に区別することが,漢字の書き取り問題において精度約80%,再現率約51%,漢字の読み問題において精度約64%,再現率約52%で判別可能であること」「タスクによって,オンライン手書きデータ特徴量への記憶の度合の反映度が異なること」「被験者が『完全に記憶している』と判断した場合でも,オンライン手書きデータ特徴量には大きな差異があること」が明らかとなった.
さらに,手書き情報と,それに付随する学習者の表情・動作を特徴量として,「問題を解くときに悩んだか否か」,「自信を持って答えたか否か」を推定する試みを同じ30名の被験者を対象に,大学入試センターの選択問題を用いて実施した.その結果,解答時に悩んだか否か,自信があったか否かの推定について,それぞれ平均精度75.3%,66.7%,平均再現率74.8%,60.1%を達成した.


今後の課題としては,本稿を応用した記憶支援アプリケーションの開発とそのアプリケーションに用いるための効率的な機械学習が行える機械学習器の設計・開発が挙げられる.