表題番号:2012B-070 日付:2013/04/04
研究課題不実開示時における発行会社の株主に対する民事的責任のあり方に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 准教授 和田 宗久
研究成果概要
 本研究(不実開示時における発行会社の株主に対する民事的責任のあり方に関する研究)では、長期的には、「上場会社等において不実開示等が行われた場合に、当該上場会社が発行していた株式その他有価証券の保有者(場合によって、当該不実開示に基づいて有価証券を売却したり、買取を断念した者も含む)らに対し、その保有していた有価証券の価値の下落等による経済的損失に関して、法人たる会社として如何なる損害賠償責任を負うもの考えるべきか、ということについて、債権者等の他の利害関係者との利害調整も踏まえた解釈論および立法論のあり方を考察する」ことを目的としたものである。
 本研究に関係する領域としては、法分野だけでも、会社法、金融商品取引法、不法行為法、倒産法などの領域にまたがるが、本研究期間中は、周辺領域、すなわち、不実開示が行われた際の被害者への救済の原資として考えられる保険制度に関わる事項や、そもそも不実開示が起こったのか起こっていないのか、ということに関わる「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行とは何か?」「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行からの逸脱とはどのような場合をいうのか?」といったことについて研究を行った。
 前者(保険制度関連)については、とくにアメリカにおけるD&O保険の現状と、それに関わる議論について研究を行い、そもそもアメリカにおいては、株主が会社やその役員に対して、訴訟、それもクラスアクションを提起することについて、損害の填補ということはそれほど念頭に置かれておらず、そうした訴訟が提起される(または、その可能性がある)ことによる抑止(deterrence)機能がどれだけ期待されうるのか? または、そうした機能の実効性はどれくらいあるのか? といった観点から議論されていることを確認し、様々な文献等をもとに分析・検討を行った(この点に関する成果の一部は、下記の研究成果におけるアメリカ法で公表予定の論稿において公表する予定である)。
 また、後者(一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行関連)については、過去の破綻銀行、とくに日本長期信用銀行や日本債券信用銀行に関するケースについて検討を行い、その成果の一部は、下記の研究成果で挙げられている『「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」について』という論稿で公表したが、現在、近時の事例も参考にしながら、さらに研究をすすめている最中である。
 なお、具体的な成果に結びつけていくのはこれからであるが、本研究期間中、ロンドンへ出張を行い、上記制度等に関連する資料収集を行うとともに、FRC(Financial Reporting Council)を訪問し、近時の、イギリスにおけるガバナンス制度改革の動向や、FRC「が発行会社と機関投資家間の関係性を良好にし、それによって長期的なリターンを両者が得られるようにする」といった目的から策定した"The UK Stewardship Code"などについてヒアリングを行った。
 今後は、引き続き、上記の研究をすすめ、深めていくとともに、不法行為法や倒産法の分野についても、国内外の法制度や事例等をもとに、研究を行っていく予定である。

*本研究期間中、多少問題意識を修正しながら、「上場会社の不実開示時における損失分配ルールのあり方に関する研究」というテーマで、平成25年度(2013年度)の科学研究費補助金 基盤研究(C)に応募したところ、採択されることとなった。