表題番号:2012B-051 日付:2013/04/12
研究課題再取得学歴の効用に関する日・米・中比較―大学院教育・学習成果・労働市場
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 吉田 文
研究成果概要
 本研究の目的は、わが国では社会人大学院修了者(とくに文系)が労働市場において評価されないという現象は、これに関わる3つのアクター(社会人大学院生/修了者、大学院/教員、労働市場/雇用者)のそれぞれの関係における齟齬があり、それがこうした現象を生み出しているのではという仮説のもとに、日本、アメリカ、中国の3つの社会を比較することを目的とする。日本の状況を明らかにすることが主たる目的であるが、その状況をよりクリアにすることを目的として、社会人大学院修了者の社会的評価が高い諸国のうち、もっとも早くそうした仕組みを確立したアメリカと、近年、急速にそうした仕組みを構築しつつある中国を対象に、それを支えているアクター間の関係構造について調査を行う。
 日本においては、2008年に実施した専門職大学院在学者を対象とするアンケート調査の再分析、経営系専門職大学院修了者へのヒアリング、専門職大学院の認証評価団体へのヒアリングを実施した。また、企業に対するヒアリングを実施した研究者から、企業の大学院修了者に対する評価について発表してもらい、アメリカについては先行研究の検討、中国については中国の専門職大学院在学者・修了者を対象にしたアンケート調査を実施した研究者に発表をしてもらい。それぞれ日本の状況との比較検討を行った。
 その結果、日本の場合、大学院在学者は、必ずしも職業キャリアアップやキャリアチェンジを目的として進学したわけではなく、むしろ純粋な向学心が強いこと、したがって、大学院での学習を職業上の成果に結び付けようとする意識は比較的稀薄であることが明らかになった。また、雇用者は、大学院修了者に対する評価の基準が曖昧であり、一方で過大な期待をし、他方で大学院教育に対する信頼の度合いが弱いという傾向がある。さらにいえば、大学院教育が少人数のゼミ形式が多く、大学院生間の切磋琢磨が少ないことも日本の特徴の1つであった。したがって、学生と大学院教育、学生と労働市場の間に好循環が生じていないことが想定され、上記の仮設が部分的に実証されたということができる。
 この成果は、下記の論文として発表している。また、これらの研究をもとに、研究の枠組みをブラッシュアップし、2013年度の科学研究費補助金を申請し、採択の結果を得ることができた。