表題番号:2012B-047 日付:2013/03/11
研究課題高感度ナイキストレート電波干渉計観測による電波トランジェント天体の正体解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 大師堂 経明
(連携研究者) 教育・総合科学学術院 助手 貴田寿美子
(連携研究者) 教育・総合科学学術院 助手 青木貴弘
研究成果概要
那須パルサー観測所では、電波望遠鏡からのアナログ電圧信号をナイキストレートによってサンプリングした後、FFTプロセッサで電波干渉計としての相関処理を行っている。2012年度は8機の20m鏡を、4組の2素子干渉計と1組の8素子干渉計の2つのモードを用いて天体観測を行った。
2素子干渉計では、天体の光度変動の観測を行った。一例として、3C 84は数ヶ月から数年の時間スケールでゆっくりと増光、減光を繰り返しており那須観測所でも変動が検出された。さらに変動現象を高精度に検出するために、ノイズダイオードを用いた受信機のゲイン補正システムを構築した。受信機(特に増幅器)には温度特性があり、外気温に依存して増幅率が変動する。これまで参照天体を用いた補正を行っていたが、このシステムの構築により目標天体の側に参照となる定常的な天体がない場合や気温の変化の激しい早朝や日没の時間帯の観測データも有効に解析可能となった。また、これらのデータ解析に際し雑音や既知の電波天体カタログの評価を行い、解析の信頼性を高めるためのアルゴリズムを開発した(Aoki et al. 2012, Tanaka et al.2012)。これらのアルゴリズムを解析ソフトウェアに実装した。
 8素子干渉計は1素子を1ピクセルとして計8ピクセルの動的電波撮像を行う世界でも特徴的な観測法である。これまで、8素子干渉計では観測中の位相誤差の評価方法が未確立であったため、ビーム感度のコヒーレントロスにより数日以上の連続観測は実現できていなかった。今年度、8素子干渉計と7組の2素子干渉計の観測を同時に行い、観測された2素子干渉計とシミュレーションの干渉縞を比較することでアンテナ素子間の位相誤差を求めた。 さらに、それらの誤差を相殺する位相をFFTプロセッサ内で与え、24 時間ごとに位相補正を行った。その結果、1週間を通してコヒーレントロスを20%以内に抑えた連続観測を達成した。取得した1週間の平均データに正規化ビームパターンとの相互相関処理をかけるパターンマッチングを行うことでデータ解析を行った。解析の結果、25 個のNRAO VLA Sky Survey カタログ天体が同定され、最小のフラックス密度は622mJyであった。今年度、8素子干渉計の観測技術が確立され、今後は様々な赤緯を同様に観測することで、より多くの天体検出が適う。さらに、電波トランジェントの突発現象を動的に検出できると期待される。
また、これらの天体観測や装置開発と並行して那須観測所周辺の電波環境測定を行った。昨今の無線通信機器の加速度的な普及により、那須観測所での観測データにも影響を及ぼす可能性が生じている。測定の結果、観測周波数の極近傍に定常的に強い電波の発信が確認された。混信対策として、観測中心周波数を1.420GHzから1.415GHzに変更し、受信機内の周波数フィルターを2段組みにする等に取り組んだ。混信対策には引き続き取り組んでいく。