表題番号:2012B-046 日付:2013/04/05
研究課題クロロフィル蛍光による細胞内代謝推定システムの構築
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 園池 公毅
研究成果概要
 光合成は光のエネルギーを化学エネルギーに変換するエネルギー変換系であり、光エネルギーの捕集系としてクロロフィルをはじめとする光合成色素を持っている。光を吸収した色素がそのエネルギーの一部を再び光として放出する過程(蛍光)は、クロロフィルのようにエネルギーが光合成という別の過程によって使われる場合には、それらの過程と競合する。結果として、蛍光と光合成には一般的に負の相関がみられ、蛍光測定は光合成の状態をモニターするための手段として利用可能である。光合成生物の中でも、原核生物であるシアノバクテリアは、細胞内の代謝が複数の細胞小器官に分散していないため、細胞内のさまざまな代謝が原理的には光合成に影響を与えると期待される。このことは、クロロフィル蛍光測定は、光合成以外の代謝についても情報を得る手段としても使える可能性を示唆する。本研究では、クロロフィル蛍光と細胞内の代謝の間の関係を明らかにすることを目的として実験を行なった。
 今年度は、光合成以外の代謝系の中で最も解析がしやすいと考えられた呼吸系に焦点を絞り、呼吸の電子伝達に関わるNDH複合体のサブユニットをコードする遺伝子の破壊株の表現型解析を行なった。サブユニットのうちndhF1遺伝子を破壊したシアノバクテリアでは、呼吸速度の低下がみられるとともに、暗順応した細胞に光を照射した際に極めて大きなクロロフィル蛍光強度の変動がみられた。このクロロフィル蛍光挙動の変化の原因を解析したところ、ndhF1遺伝子破壊株においては、暗所でもプラストキノンプールが酸化しており、結果として細胞がステート1に固定されて野生型とは異なる大きなクロロフィル蛍光強度の変化が引き起こされていることが明らかとなった。さらに、このステート状態の変化によって、クロロフィル蛍光から推定される光合成速度が、酸素発生速度によって見積もられる光合成速度と大きく異なってしまうことも明らかとなった。