表題番号:2012B-045 日付:2013/04/17
研究課題両生類造血巣が育む血球前駆細胞の成熟と末梢血球数調節
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 加藤 尚志
(連携研究者) 教育・総合科学学術院 助手 前川峻
研究成果概要
ほとんど全ての脊椎動物は,血球をもつ。したがって血球産生(造血)の科学は,地球上の様々な動物の多様性と普遍性の探求のすぐれた題材である。脊椎動物の血球は,酸素運搬を担う赤血球,生体防御を担う白血球,止血血栓形成を担う栓球(哺乳類の脱核した血小板も栓球に含まれる)に大別される。それぞれ細胞形態も機能も異なるが,いずれも造血幹細胞を源として恒常的に派生する血球前駆細胞が増殖,分化,成熟し,末梢血管へ放出された細胞である。この過程を「造血」と呼ぶ。動物造血は基礎生物学・比較生物学の謎の宝庫の場であると確信する一方,全体を俯瞰する科学蓄積が乏しい。本研究は,進化序列と,造血の環境応答の興味から,特に両生類(アフリカツメガエル;Xenopus laevis,以後ツメガエル)の造血に焦点を当て,解析系立上げに尽力した。環境刺激としては,外温動物の特性を活かして,低温環境に暴露したツメガエルの汎血球減少症の機序の解明に焦点を当てた。特に赤血球減少について詳細な分析を進めたところ,低温環境に暴露されたツメガエルは,その急性期(低温暴露後1日以内)に,肝臓への循環赤血球の集積と破壊が起こることを突き止めた。この結果,赤血球造血の亢進を待たずに循環赤血球数が低下する。一方,恒温動物のマウスで同様の低温環境暴露モデルを解析したところ,一過性の末梢赤血球数の低下は起こるが,外温動物とは異なり,造血器そのものは体温に維持され,腎臓における赤血球産生因子エリスロポエチンのmRNA発現が亢進することが判明した。本研究の取り組みによって,ツメガエルにおける造血解析が徐々に精緻化できるようになり,このような比較実験生物学的な検討が可能となった。
本研究の取り組みをはじめて10年を経過したが,研究成果を紹介する機会が徐々に増えてきた。特に最近,新しい題材として両生類造血に感心を寄せる研究者が増えつつあると実感している。