表題番号:2012B-044 日付:2013/03/29
研究課題近世日本におけるキリシタン禁制政策と異端的宗教活動の横断的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 大橋 幸泰
研究成果概要
 本年度も昨年度同様、近世日本におけるキリシタン禁制政策のもとで潜伏状態にあったキリシタンや、本山から異端視された隠し念仏などの異端的宗教活動を横断的に考察する研究を継続した。本年度はこれに関連する問題として特に、島原天草一揆やキリシタンの記憶がどのように近世秩序を規定していたかという点に焦点をあて、長崎県諫早市と大分県大分市に出向き関連史料の調査を行った。
 その結果、諫早では、島原天草一揆の際幕府軍に従軍し、多くの戦死者を出した佐賀藩が、近世期を通じて50年ごとに実施した50年忌・100年忌・150年忌・200年忌法要の史料を収集するとともに、大分では、17世紀中期、浄土真宗の“異端”への弾圧にともなって一時期、杵築藩が真宗を禁止したことがあったという事実を確認した。
 個別の問題としては今後、関連史料をつきあわせながら検討していく必要があるが、当面、全体的な問題としては、横断的視点としての異端的宗教活動という枠組みと、複眼的視点としての属性論という認識方法が、このテーマを進めていくうえで有効な方法であるとの認識に達している。
 前者(異端的宗教活動という枠組み)は、宗教をめぐる問題を扱う際、宗教別・宗派別に問題を考えるのではなく、それらを横断的に捉えようとする試みである。特に、それぞれの異端的な宗教活動を従来の宗教別・宗派別―たとえば、キリシタンならキリスト教、隠し念仏なら浄土真宗―の問題として考えるのではなく、当該期の社会情勢を念頭に置きつつ相互の関連性を追究していこうということである。また、後者(属性論という認識方法)は、集団でも個人でも、単一の属性だけで成り立っていないことをより意識しようとする方法である。たとえば、潜伏キリシタンの場合、宗教活動としてはキリシタンを重視していたが、近世社会に生きる百姓という属性も併せ持っていた。複数の属性を併せ持ち、どの属性の立場を優先したかを考えることが、史実に接近するのに有効だと考える。
 なお本年度は、こうした歴史研究の成果を歴史教育に架橋するための取り組みを行ったことを付記する。