表題番号:2012B-043 日付:2013/04/02
研究課題4~10世紀のモンゴリア南部・中国北部地帯における民族・文化融合の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 石見 清裕
研究成果概要
 2012年度の本研究課題に係る活動は、主として墓誌史料の解読とその史料的位置づけ作業に力を注いだ。というのも、中国南北朝・隋・唐・五代期(4~10世紀)の編纂史料(紀伝体・編年体の歴史書)については、私はほぼ把握しており、それらだけでは窺い知れない世界を認識の表面に浮かび上がらせたいからである。中国の墓誌とは、正方形の石に個人の生涯・業績を漢文で刻し、墓室に納めるものである。当然ながら、故人の生前の姿を表彰する記述が多いが、生前に関わった出来事などは客観的視点で記されるものであり、歴史研究では一級史料なのである。しかも、未だ読解されず、史料として使用されていない墓誌が多い。したがって、研究経費の多くは、墓誌の拓本集や録文集およびその研究書の購入に当てざるを得なかった。
 本年度、分析したのは、次の墓誌である。
① ソグド人「安伽墓誌」(北周期・6世紀)、② 柔然人「閭夫人墓誌」(北斉期・6世紀)、③ 突厥人「史善応墓誌」(唐代・7世紀)、④ 鉄勒人「僕固乙突墓誌」(唐代・7世紀)、⑤ 高句麗人「泉献誠墓誌」(唐代・7世紀)、⑥ 高句麗人「高足酉墓誌」(唐代・7世紀)、⑦ 波斯人「阿羅撼墓誌」(唐代・8世紀)。
 これらは、いずれも非漢族に属する出身者で、中国に移住して死亡し、中国で埋葬された者たちである。したがって、民族の移動の実例がここから浮かび上がってくるのである。このうち、③は現在のところ未公開史料であり、私は中国の研究者の厚意によって個人的に拓本写真を入手できた。その他の墓誌についても、中国の研究機関に赴いて実見するつもりであったが(実際にはコネでそれは可能であったが)、折からの反日デモによって個人的に日本人に便宜を計るには時期的に不適当との返答であったため、断念した経緯がある。
 上記墓誌史料の分析は、今後学界に発表するつもりである(①に関してはすでに『史滴』第34号〈早稲田大学東洋史懇話会、2012年12月〉に発表したが、「特定課題研究助成費を受けた旨」などの記入を失念した)。
 なお、墓誌史料とトゥルファン新出土文書とを照らし合わせると、5~6世紀のユーラシア東半部の交通の様相が認識でき、それらは「梁職貢図」とも関係することが判明した。それについては、下記に投稿中である。