表題番号:2012B-042 日付:2013/04/10
研究課題地理教育の系統化のための基礎的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 池 俊介
研究成果概要
 本研究では、日本における系統的な地理教育カリキュラム構築の基礎的作業として、ポルトガルの初等・中等教育段階における地理教育の特質を明らかにすることを目的とした。ポルトガルでは基礎教育9年間が義務教育とされるが、義務教育期間は1~4学年の第1期、5~6学年の第2期、7~9学年の第3期に区分される。このうち、日本の中学校に相当する基礎教育第3期には「人文・社会科学科」という教科の枠組みの下で、「地理科」「歴史科」の2科目が置かれている。特に本年度の研究では、2001年に告示された「ナショナル・カリキュラム(Curriculo Nacional do Ensino Basico)」に基づいて大きな変化を遂げた「地理科」の概要を整理するとともに、その課題について考察することを目的とした。
 ポルトガルでは、1980年代までは知識の習得が基礎教育を通じて重視されていたが、1990年代から子どもの自発性を引き出す課題への関心が高まり、「能力」「態度」が次第に重視されるようになった。とくに、今世紀に入って以降は、子どもの学習意欲の低下や社会への無関心等の問題を克服するため転移可能な「能力」への関心が高まり、2001年に告示され翌年から実施された「ナショナル・カリキュラム」においても「必要とされる能力」という副題が付けられるに至った。この「ナショナル・カリキュラム」では、とくにカリキュラムの弾力化に重点が置かれ、教科の授業時数の削減とともに教科横断的な学習領域の導入が積極的に図られた。
 「地理科」では、それまで第8学年に空白があったものの、第7学年にヨーロッパ地誌を中心とする週3時間の授業(50分)が、第9学年に世界地誌を中心とする週4時間の授業(50分)が置かれていた。しかし、「市民形成(Formacao Civica)」をはじめとする3つの「教科横断領域」の設置による教科の授業時数の削減にともない、「地理科」「歴史科」の授業時数は両科目を合わせて第7学年で週2時間(90分授業)、第8・9学年でそれぞれ週2.5時間(90分授業)とされ、実質的な「地理科」の授業時数は第7~9学年全体で1割減少することになった。90分授業の誕生を評価する教師がいる一方、多くの教師は地理教員の需要の減少にもつながる「地理科」の授業時数の削減に大きな不満を抱いている。
 また、「ナショナル・カリキュラム」に対する教師の理解がいまだに不足していること、また教科書の学習内容が依然として知識重視の傾向が強く分量が多いこと等の理由により、「ナショナル・カリキュラム」の内容が授業に十分に反映されているとは言いがたい状況にあることが明らかとなった。