表題番号:2012B-033 日付:2014/04/10
研究課題戦後日本における「歴史・時代小説ブーム」のジャンル別比較作家論的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 高橋 敏夫
研究成果概要
本研究は、戦後日本において数次のブームが認められる「歴史・時代小説ブーム」の内実と意義を、1960年代に顕著となる歴史小説ブームから1990年代から現在に至る市井小説ブームまで、それぞれのブームを担った二人の作家の比較研究を軸に明らかにしようとする試みである。
歴史・時代小説を含む大衆小説の歴史は読者の関心の歴史であり広範な時代精神の歴史である。「歴史・時代小説ブーム」の研究は、従って、戦後時代精神史の一端を照らしだす研究ともなる。
小説の一大ジャンルとして多くの書き手と膨大な読者を有する歴史・時代小説は、1990年代以降、従来にない規模のブームをひきおこしている。これは、1950年代後半の「剣豪小説」ブーム、1960年前後の「忍者・忍法小説」ブーム、そして1960年代にはじまる「歴史小説」ブームなどに比べてもいっそう大きなブームである。しかし、このようなブームを巻き起こしてきた歴史・時代小説については、学術的かつ総合的な研究はほとんどなされてこなかった。
従来、歴史・時代小説研究は、故尾崎秀樹を中心とした大衆文学研究会にあつまる在野の研究者と評論家の手にゆだねられてきた。そこで積み重ねられてきた成果を参照しつつ、時代小説の持続的で包括的な研究をはじめる必要がある。その研究対象としては個々の作家作品研究とともに、歴史・時代小説の意義が凝縮されるブームの研究が重要である。

今回の研究には三本の柱がある。
一は、戦後の歴史・時代小説ブームの概観。とくに1990年代に始まり現在に至る「市井もの」の意義をたしかめる。本研究の全体像の提示となる。
二は、ここ6年にわたって続けている最新刊の時代小説の批評である。雑誌「グラフィケーション」(富士ゼロックス発行)を主に、多くの雑誌・週刊誌・新聞で展開中である。
三は、わたしの「時代小説の現在」三部作、『時代小説に会う!』『時代小説が来た!』につづく『時代小説は行く!』(原書房刊)を、本研究成果の一部を収めて、まとめる。