表題番号:2012B-024 日付:2013/02/25
研究課題将来債権譲渡の法的構造・将来債権譲渡の効力の及ぶ範囲
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 助教 白石 大
研究成果概要
 本課題は,将来債権譲渡の法的構造についての解明を目標としており,これを通じて,近年の実務において急速に普及が進みながらいまだ法的に不明確な点が多い同制度に,法的安定性をもたらすことを企図するものである。
 本課題に関連する諸問題のうち,私はまず,債権の発生時期に関する研究を行ってきた。何が「将来債権」に該当するかを明らかにすることは,将来債権譲渡の効力の限界を探るうえで必須であり,この研究は本課題の主要部分をなすものである。債権法における基礎的なテーマでありながら,これまでわが国ではまとまった研究の対象となってこなかったこの問題に取り組むため,私はフランス法の議論を参照した。その理由は,近年フランスで将来債権譲渡と譲渡人の倒産手続との関係についての破毀院判例が立て続けに出され,これを契機に債権の発生時期に関する検討が進み,この論点に関して多くの議論の蓄積がみられるからである。これまで,2010年度にはフランス債務法の体系書,学位論文,雑誌論文,シンポジウム記事のうち,債権の発生時期につき論じるものを広く渉猟してまとめる作業を行い,次いで2011年度にはわが国の判例・学説の分析を行ってきた。これらを受け,2012年度はその成果を執筆する作業に注力し,博士学位申請論文「債権の発生時期に関する一考察」を完成させた(同論文により2012年12月に博士学位を取得)。
 この研究から得られた示唆は多いが,そのうち何点かを以下に示す。第1に,フランスでは意思自治の伝統が強く,このため賃貸借や雇用等の継続的履行契約においても,契約締結時に全期間分の賃料債権・賃金債権が一斉に発生すると考える見解が有力であること。第2に,わが国では賃料債権・賃金債権を基本債権と支分債権に分けて把握するのが一般であるが,そこでいう「基本債権」の内実が何であるかについては明らかではないのに対して,フランスではこれを契約の拘束力と結びつけて説明する見解がみられること。第3に,わが国では債権の発生時期に関する議論を法解釈に反映させることはほとんど行われていないのに対して,フランスでは,賃料債権の発生時期を将来債権譲渡の効力の及ぶ範囲についての解釈に直結させて論じる傾向が強いこと。第4に,債権の発生時期に関する検討を通じて,債権とは何か,債権と契約との関係はいかなるものか等という,より根源的な問いに関する議論が深められてきたこと。
 なお,上記論文「債権の発生時期に関する一考察」は,早稲田法学88巻1号以降に連載する予定である。