表題番号:2012B-023 日付:2013/04/12
研究課題非訟事件手続法改正についての比較法的考察に基づく検証
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 教授 松村 和徳
研究成果概要
本研究は、平成23年5月に成立した「非訟事件手続法」を比較法的考察に基づきその立法を検証することを目的とする。とくに、職権探知主義、公開主義、口頭主義、直接主義などいわゆる訴訟原則と呼ばれる手続原則の規律により、審問請求権の保障、公正手続の保障、迅速裁判の保障といった民事裁判手続の中核をなす理念が改正法で十分に実現されるものとなっているかという点を中心に検証作業を実施する予定である。そして、検証作業における比較法的考察の中心が2005年に施行されたオーストリア非訟事件手続法の改正である。当該年度における本研究では、このオーストリア法の立法改正状況を明らかにすることに専念した。そして、その成果として、次のことが言える。
1854年制定のオーストリア非訟事件手続法は、かなり以前からその改正の必要性が唱えられてきた。1902年には、非訟事件の手続に関する法律の担当者草案が仕上げられたが、当時の社会情勢からその立法化は実現されなかった。そして、非訟事件手続法は、現在の基準によれば法治国家の手続規定の要請にもはや合致していないとの批判が強まり、この改正の機運が再び高まってくるのが、1970年代から80年代にかけてであった。1985年の司法省草案及び1988年における予防法及び公証制度に関するルートヴィッヒ・ボルツマン研究所の代替的草案に、改正作業の端緒を見ることができた。そして、1995年に「その改正の時期が来た」というテーマで裁判官週間が開かれ、1997年の裁判官週間では「新しい非訟事件手続 その内容と構造」をテーマで討論がなされ、その後、弁護士、公証人らも含めての集中的な議論がなされ、2003年に政府草案が議会に提出され、長きに及ぶ改正が結実することになった。  
本研究の具体的考察対象との関係でいえば、オーストリア法の特色として次の点が指摘できる。まず、非訟事件手続は、原則として当事者の利益と同様に一般的利益においてもできる限り可能な限り迅速かつ費用のかからない二当事者間の個々の訴訟の解決というものではなく、それは共同で生活していかなければならない人々の間に存在する継続的な特徴を持つ法律関係の形成を出発点とすべきとした点にある。また、オーストリア非訟事件手続の主たる特徴を形成しているのは、将来を指し示す適切な自由な裁判官のまさに監護者的な要素である。この手続では、一般の利益または特別の保護を必要とする当事者の保護が中心となることから、可能な限り職権探知主義ができるだけ広く支配されなければならないとする。さらに、可能な限り原則的で手続に関する裁判官と当事者の協働責任(真実義務と完全陳述義務の明文化)が強調された。また、手続原則も、より大きな融通性があり、形式的な厳格性を後退させて(直接主義の厳格な導入の回避)、保護志向性を有することが必要であり、実効的な法的審問請求権の保障も十分に考慮されている。これらの点をわが国の非訟事件手続法がどの程度考慮し、実効的なものとしているかを検証することが、本研究のこれからの課題である。
 なお、本研究の詳細な成果は、『比較法学』 第47巻第2号以下に「オーストリア非訟事件手続法」として発表していく予定である。