表題番号:2012B-020 日付:2013/03/21
研究課題司法取引の諸類型とその制度設計に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 教授 田口 守一
研究成果概要
 (1) 当初は、司法取引に関するアメリカ調査を企画していたが、以下の事情からドイツ法研究を先行させることとした。①第1に、「法制審議会新時代の刑事司法制度特別部会」における司法取引の議論は、いわゆる「捜査・公判協力型の協議・合意制度」を採用する方向を打ち出し、これに対して「自己負罪型の協議・合意制度」は今後の検討課題とされた。しかし、私見では両制度は被疑者の手続参加制度としての共通性を有している。したがって、原点に帰って、司法取引の根拠を検討する必要性を感じた。②第2に、これまでドイツの合意制度を日本に紹介してきたが、ドイツにおいて合意制度肯定論の代表であるヘルマン教授のシンポジウムにおいて報告する機会が与えられたことと、ヘルマン教授の記念論文集を編集・執筆したことから、ドイツ法における合意手続の基礎理論を解明することを優先することとした。制度設計という各論よりも基礎理論という総論こそ今日の日本に必要な研究と考えたからである。
 (2) ヨアヒム・ヘルマン原著 / 田口守一=加藤克佳編訳『市民社会と刑事司法』(成文堂、2013年1月)において、「プロローグ―ヘルマン刑事訴訟理論の現代的意義」の執筆、「刑事司法の政策と比較研究」および「公判における合意手続の法的構造」などのヘルマン論文の訳出を通じて、①合意手続論は国家と市民の関係という基礎理論につながる問題であり、それは、刑事訴訟の目的論に関係し、刑事訴訟とは、単に刑法を実現する手続なのではなく、事件を解決して当事者に受け入れられることで正義が実現されることを目的とすると理解すべきであるとするヘルマン理論を析出し、日本でもこのような基礎理論に基づいて司法取引を立法する必要があることを強調した。司法取引制度の導入を主張する意見は、司法取引制度を単に捜査効率の視点からのみ理解しているが、それでは法制度の根拠も限界も明らかとならないであろう。②このような私見を、ドイツ・アウグスブルグ大学法学部におけるシンポジウムにおいて発表した(Morikazu Taguchi, Die Strafprozessrechtslehre von Professor Joachim Herrmann und die Strafjustizreform in Japan, Vortrag an der Juristischen Fakultät der Universität Augsburg am 1. Februar 2013.)。
 (3) 司法取引制度は、経済犯罪や薬物犯罪の捜査に有効とされている。私見も、司法取引制度は多様であると考えるので、とくに企業犯罪における課徴金減免制度を参考としつつ、企業犯罪捜査における司法取引の重要性について研究を進めているが、その一環として、いわゆるコンプライアンス・プログラムに関してドイツにおいて初めて実施された実態調査に関する報告書(Ulrich Sieber / Marc Engelhart, Compliance Programs for the Prevention of Economic Crimes in Germany -An Empirical Survey-)について、2013年3月の早稲田大学刑事法学研究会においてその内容を報告した。