表題番号:2012B-017 日付:2013/05/14
研究課題リスクの先端法学-金融リスク・災害リスク・環境リスク-
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 教授 大塚 直
研究成果概要
環境リスク・災害リスクを防止するための原子力規制について検討し、原子力規制・環境規制、各種事業規制のような規制システム、緊急時の対応計画、原子力発電所事業の規制についての組織の在り方等を検討した。
 また、放射性物質の環境規制における扱いについて、2012年に原子力規制委員会設置法の制定により、環境基本法における放射性物質適用除外の規定が削除されたが、その背景事情、今後の個別環境法における放射性物質適用除外規定の削除についても検討した。その結果、従来存在した環境基本法13条の「汚染の防止」は「汚染の除去等」を含みうる概念であり、2012年の前記改正においては、放射性物質汚染対処特措法を環境基本法体系下にある環境法令として位置付けるために、環境基本法13条を削ることが望ましいと考えられたことが明らかになった。
 さらに、原子力発電所の環境リスク・災害リスクを防止するため、環境影響評価手続を活用できないかについても検討した。この点について、アメリカの国家環境政策法(NEPA)では、事業の環境影響評価においてworst caseが検討されている。特に危険性のある施設については、worst caseを想定しておく必要があろう。これに対しては、「なぜ時間をかけて起こりもしないことを検討しなければならないのか」という疑問が提起されうるが、わが国の環境影響評価法の下では、許認可等権者及び環境大臣は環境影響評価書について、危険施設に関しては、worst caseについての調査が十分かを確認し、不十分な場合にはもう一度調査するよう意見を提出すべきである(同法23,24条)。この問題に関しては、さらに、その前提として、現行の環境影響評価法はそもそも事故時における対応を評価する仕組みになっていなことから、この点をどうするかについての基本的な検討も行わなければならない。
 予防原則とも関連する環境損害についてはどうか。原子力事故に対する損害賠償においては、放射性物質汚染対処特措法やそれに伴う紛争審査会指針において、一種の環境損害が認められたことは重要であるが、いわゆる純粋環境損害は認められていないことが明らかになった。すなわち、2011年8月26日、放射性物質により汚染された廃棄物の処理及び土壌等の除染等の措置については、「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(放射性物質環境汚染対処特別措置法)が制定され、国・自治体が同法に基づいて講じた措置について関係原子力事業者に対する求償が認められたのである(但し、努力義務。44条。2012年1月施行)。この種の費用の賠償は(わが国は加盟していないが)ウィーン条約1997年改正議定書に含まれること(1条1項(k)。環境損害の一種)、この種の費用は通常の国、自治体の事務とは言い難いこと、この種の被害を賠償の対象としておかないと国や自治体が浚渫等をしない結果となるおそれについて懸念があることなどから、積極的に評価できると思われる。もっとも、国や地方公共団体の河川浚渫費用等を国、地方公共団体が支払った場合については、指針には含まれておらず、引き続き検討の必要があると考えられる。